翻って日本はどうだろうか。与野党問わず政治屋たちは、選挙のたびにバラマキ政策を掲げ、その一方で増税の「延期」「凍結」を訴えて借金を雪だるま式に膨らませている。彼らの頭の中には、この国の未来を担う将来世代のことなど微塵もないのだろう。あるのは自身がいかに当選するかだけだ。

書影『予言された世界』(小学館)『予言された世界』(小学館)
落合信彦・落合陽一 著

 サッチャーは先のインタビューで若者たちに向けたメッセージとして、次のように発言している。彼女の人生哲学、政治哲学が凝縮された言葉なのでここで紹介したい。

「将来のためを思えば、時にはきついこと、不人気なこともせねばなりません。ここに信念の大切さがあります。甘いウソよりも苦い真実に直面できる勇気を持つこと、そしてそれを人々にぶつけられる信念と情熱を持つことです」

 信念を持って難局に臨んできたサッチャーの言葉だからこそ、重みを持つ。今の日本の政治家で、このように若者たちに語りかける「言葉」を持っている者がどの程度いるだろうか。皆無だろう。信念は独善とは違う。彼女の実家は雑貨屋であった。庶民の生活を目の当たりにして育った彼女は、人々が何を思い、どんな悩みを抱えつつ日々暮らしているのかわかったうえで厳しい言葉も時に口にしていたのだ。何一つ不自由なく育ち、父親から「地盤」、「看板」、「鞄」を引き継いだ日本の2世、3世議員に、労働者たちが何を考えているか肌感覚で知ることはできまい。インタビューで彼女が続けて発した次の言葉は、若者たちだけでなく、日本の政治屋たちにこそ必要だろう。

「肝に銘じてほしいのは政治とは“人間の心”と同意語ということです。単なるロジックで政治はやってはいけません。ロジックだけで人間性がなければ政治はただのいやしい権力争いになってしまいます。人間の心を持っていて初めて大いなる知恵や判断力がつくのです」

(落合信彦)