初のクラシック・アルバム「AVE MARIA」の企画にあたって、本田美奈子さんは日本コロムビアのプロデューサー岡野博行さんに「これが私のイメージ」と、9枚のMDを渡している。このMDを全部聴き、本田さんがどのような研究を続けていたのか考えてみたい。同時代のポップスからクラシックを展望する研究である。
毎日持ち歩いたテープ30巻
「ミス・サイゴン」最終日の翌日から、本田美奈子さんは「MINAKOえとせとらテープ」と題したカセットテープに各国女性ヴォーカリストなどの楽曲を編集して収録し、サウンド、歌唱法の研究材料としていたことは連載第11回で紹介した。1993年9月13日と日付の入ったno1(第1巻)から、95年11月18日付のno30まで、2年2ヵ月間に渡って30本に及ぶ研究テープを作成していたのである。
全部で535曲、アーティスト79人に及ぶ「MINAKOえとせとらテープ」30巻を専用の黒いクロスのカバンに入れ、いつも持ち歩いていたという。かなり重いので、クルマに積んでいたのかもしれない。擦り切れたカバーの角の部分は黒いビニールテープで補強されていた。
日本フォノグラム(マーキュリー)で1995年に制作したポップス・アルバム「晴れときどきくもり」の企画段階では、プロデューサー・ディレクターの牧田和男さんにも何本かコピーを渡していた。牧田さんの手元には95年4月8日の日付の入ったno25のコピー版が残っていた。これも連載第11回で書いた。
本田さんは牧田さんに、「これが私のアルバムのイメージ」と言っていたそうだ。この時期の30巻535曲についてはいずれ全曲を分析する。
MD9枚に集約したクラシックへのビジョン
2002年11月、クラシック・アルバムの企画打ち合わせで本田さんは岡野博行さんに、やはり「これが私のイメージ」と言って9枚のMDを渡している。このMDは岡野さんが保管していた。全部で102曲収録されている。「イメージ」というより、「研究に基づくビジョン」というべきだろう。「この曲を歌いたい」という意味ではなく、ビジョンである。30巻のテープとは別の資料だが、メカーノだけは重複している。
連載前回の最後にこの102曲をアーティスト順に並べた。もう一度記しておこう(2曲以上)。
①メカーノ(Mecano、アナ・トローハAna Torroja 1959-)39曲
②サラ・ブライトマン(Sarah Brightman 1960-)23曲
③フィリッパ・ジョルダーノ(Filippa Giordano 1974-)16曲
④シセル・シルシェブー(Sissel Kyrkjebo 1969-)12曲
⑤本田美奈子(1967-2005)7曲
⑥レジーン(Regine Velasquez 1970-)2曲