その5:本は借りずに“購入”し、
その場で1ページ読む(Attractive,Timely)
日ごろ図書館を利用している人は、書籍を購入し、借りた場合よりも読書にかけるコストを高めることで、本を読む意志を強められる。これは認知バイアスの一種であり、ナッジ理論におけるAttractiveの要素を含む「サンクコスト効果(バイアス)」を用いた方法だ。
サンクコストとは、すでに支払い済みで取り戻すことのできない費用(埋没費用)のこと。これも個人の判断に影響を及ぼす因子である。主に、「風邪気味だが、チケットをすでに購入しているからライブへ行く」「パチンコでなかなか当たりが出ないが、やめるにやめられない」といった“もったいない”心理による不合理な行動を引き起こすことが多い。
読書においてサンクコストは、あえて書籍を購入して「すでにお金を払ったのだから、読まないと損」という感情によって本を読む意欲を高めるために有用だと考えられる。
なお、代金を支払っても読書に集中できない人は、書籍の購入に加えて、カフェやレストランで頼んだ高額なドリンクとともに、本を楽しむとよいだろう。フードやドリンクの代金によってさらにサンクコストを増やすことで、より大きな「もったいない」心理が働き、読書への熱が高まる。
また、書籍を購入した時に“その場で1ページ読む”ことも非常に有効な方法だ。本を購入した直後は自分の中の「本を読みたい」意欲が高まっており、適切なタイミング(Timelyな状態)だといえる。購入直後は、帰宅後や後日よりも読書に対するハードルが低く、本を開きやすい。
加えて、1ページだけ読むことにより続きが気になり、購入してから時間が経過した後でも読書へのモチベーションを維持できるといった利点もある。一度触れた作品の続きが気になる心理を心理学では「ツァイガルニク効果」と呼び、この効果は学生の勉強や観光施策などに活用されている。
本をまず1ページ読み、ツァイガルニク効果を誘発すれば、本を全く読んでいない場合に比べて読書への意欲は高まるだろう。
本記事では、ナッジ理論を活用した「本を読みやすくなる」アプローチを5つ紹介した。人によって効果がある方法は異なるだろうが、五つのうち一つや二つは効果が出る方法があるはずだ。だまされたと思って、行動経済学を日常生活に応用してみてはいかがだろうか。
・厚生労働省.『受診率向上施策ハンドブック 明日から使えるナッジ理論』(https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000506624.pdf)
・大竹文雄『行動経済学の使い方』岩波新書
・大竹文雄、平井 啓『医療現場の行動経済学::すれ違う医者と患者』東洋経済新報社
・サンクコスト効果 | 意思決定・信念に関する認知バイアス | 錯思コレクション100
https://www.jumonji-u.ac.jp/sscs/ikeda/cognitive_bias/cate_d/d_21.html
・観光をあえて未完了に感じさせることによる リピータ創出システムの提案
https://www.jstage.jst.go.jp/article/his/14/3/14_259/_pdf/-char/ja