上司・管理職のバイブルとして世界で読まれる名著『新1分間マネジャー 部下を成長させる3つの秘訣』。本の帯には、アップル、マイクロソフト、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ハーバード大学、米陸海空軍など、多くの企業や組織でこの本が用いられたことが記されている。マネジメントの本質を捉えることができ、それはビジネスのみならずサークルや部活、さらには家庭で親子が活用するにも有効だという。そんな本書のエッセンスとは?(文/上阪徹)

「チームで結果を出せるリーダー」「出せないリーダー」の決定的な差とは?Photo: Adobe Stock

「トップダウン型」リーダーシップがダメな理由

 世界で1500万部を超えるベストセラーになった上司・管理職のバイブル『新1分間マネジャー』。『新1分間マネジャー』は、マネジメントについて「1分間」というキーワードで極めてシンプルな3つの解決方法を提示してくれるのが、その最大の特色だ。

 また、若者が特別なマネジャーに出会う「物語形式」で書かれているので、明快でわかりやすい。144ページの本なので、1時間ほどで読み進められてしまう1冊である。

 若者が出会ったのは、部下はこの人のために働くことを喜び、しかも上司と部下が協力して偉大な成果をあげている、という特別なマネジャーだった。

 若者の訪問に、マネジャーは「これまでに実績をあげている方法を、今起きている変化に合わせて、いくつかの“新しい”アプローチで応用」していると語った。しかし、その前に基本から始めようと若者に提案する。

「私たちの組織でも以前はトップダウン型マネジメントを行っていました。当時はそれでうまくいったのです。しかし今やトップダウン構造では動きが遅すぎます。やる気が生まれないし、革新も生まれない。(中略)
 今やスピードが成功のカギなのだから、協調型のリーダーシップのほうが、従来の指揮命令型システムよりはるかに効率的なのです。
(P.24)

「協調型のリーダーシップ」とは何か。これこそが変化の激しい現代にも通用するマネジメントだった。

「結果」と「人」すぐれた上司はどっちを重視する?

 そして、マネジャーとアポイントを取ったとき、なぜ水曜日の午前中以外はあいていると言われたのかが、ここで明かされる。

「私は毎週水曜日の午前にチームとミーティングを行います。水曜日は都合が悪いといったのはそのためです。ミーティングでは私は聞き役にまわり、この1週間の成果は何か、どんな問題にぶつかったか、何が達成できなかったのか、そしてそれを達成するにはどんな計画や戦略が可能かなどを、チームみんなで振り返り、分析します」(P.24)

 一見すれば、普通のチームミーティングである。ミーティングの目的は、今後の活動に関する重要な決定に、みんなを参加させることだという。また、部下の意志決定を促すのはよいことだが、その意識決定に自分が参加しようとは思わない、と特別なマネジャーは語った。

 そして若者に対して、意外な言葉を伝える。

「私たちが目指すべきは結果です。みんなの才能を引き出せば、生産性は大幅に上がるのです」(P.25)

 若者は多くのマネジャーと出会う中で、結果重視のマネジャーか、人を重視するマネジャーばかりだったことを知っていた。この特別なマネジャーも、結果を重視するだけのマネジャーなのか、と思ったが、出てきた言葉は驚くべきものだった。

「いち早く成功を手にするためには、マネジャーは結果と人の両方を重視しないといけません。そもそも、人がいなければ結果は得られません。だから私は、人と結果の“両方”にこだわります。両者は一体なのです」(P.25)

 そして自分のパソコンのスクリーンセーバーに映し出された「実践的真理」について語り始めた。

「チームで結果を出す」上司の意外な特徴

 この文章を書いている私には、『幸せになる技術』というタイトルの著書がある。3000人以上の、いわゆる成功者に取材する機会をもらった私は、あるとき極めてシンプルな法則のようなものに気がついた。

 世の中では、多くの人が成功を目指している。社会的な成功を手に入れることができれば、幸せが手に入れられるのではないか、と考えている。そんな印象が私の中にはある。だから、なんとか成功しようと努力をするわけだ。

 だが、私の出会ってきた成功者は、もちろん幸せな人たちだったが、では成功したから幸せになれたのか、というと、実はそういう印象は持てなかった。多くの人が、成功するプロセスを楽しんでいた。苦しいことを笑い飛ばしていた人もいた。

 私のわかった法則とは、こういうことである。成功した人が幸せになるのではない。幸せな人が成功するのだ。そして幸せになるのは、実は案外、難しいことではない。自分で決めればいいからである。

 誰がなんと言おうと私は幸せ。そういう人に、幸運は舞い降りる。逆を考えていただくと、この真理が理解いただけるかもしれない。

 少し余談になったが、本書で特別なマネジャーが語る「実践的真理」は、これによく似ていたからだ。

 マネジャーはその真理を忘れないように、パソコンのスクリーンセーバーにこんな文字を入れていた。

「自分自身に満足している人は満足できる結果を生み出す」(P.26)

 そしてマネジャーは若者にこう語りかけた。

「自分自身のことを考えてみてください。最高の仕事ができるのはどんなときですか。自分に満足しているとき? それとも満足していないとき?」
 若者は納得したようにうなずいた。「自分に満足しているときのほうが、仕事をばりばりこなせます」
「もちろん、そうです。あなただけでなく、みんなそうなのです」
(P.27)

 つまりは、部下が自分に満足するよう助けることこそが、部下の結果を生み出せるということだ。

 そして、近くにあるのに行列のできるレストランとそうでないレストランの違いを問う。何が、それを分けているのか。

「とても単純なことです。すぐれた製品や、人々が望むサービスを提供しなければ、商売を長く続けていくことはできません。あたりまえのことは見逃しがちなのです。この店のような高い成果をあげる最良の方法は“人”です。最高のレストランに成功をもたらしているのは、そこで働いている“人”なのです」(P.28)

 マネジャーは、若者に自分のチームの誰かに話を聞いてはどうか、と提案する。そして若者は3人のメンバーから、3つの秘訣を耳にするのである。

(本記事は『新1分間マネジャー 部下を成長させる3つの秘訣』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

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