上司・管理職のバイブルとして世界中で読まれる名著『新1分間マネジャー 部下を成長させる3つの秘訣』。本の帯には、アップル、マイクロソフト、ジョンソン・エンド・ジョンソン、ハーバード大学、米陸海空軍など、多くの企業や組織でこの本が用いられたことが記されている。マネジメントの本質を捉えることができ、それはビジネスのみならずサークルや部活、さらには家庭で親子が活用するにも有効だという。そんな本書のエッセンスとは?(文/上阪徹)

「結果」と「人」、成果を出すリーダーはどっちを優先する?Photo: Adobe Stock

「トップダウン型」と「横並び型」
すぐれたリーダーシップはどっち?

 世界で1500万部を超えるベストセラーになった上司・管理職のバイブル『新1分間マネジャー』。『新1分間マネジャー』とは、ちょっと不思議なタイトルだが、成果が出るまでに時間がかかるマネジメントについて、「1分間」というキーワードで極めてシンプルな解決方法を提示してくれるのが、その最大の特色だ。

 また、「物語形式」で書かれているので、実践的でわかりやすい。144ページの本なので、1時間ほどで読み進められてしまう。だが、その内容は極めて深く、読み終わった後にはもう一度、読み進めてみたくなる。そんな1冊だ。

 本書は共著の形になっているが、著者の一人は、ケン・ブランチャード。60冊の共著書があり、世界の40を超える言語に翻訳され、合わせて2100万部超の売り上げがあるという世界で最も影響力のあるリーダーシップの権威だ。

 著者のもう一人は、スペンサー・ジョンソン。日本でもミリオンセラーとなった『チーズはどこへ消えた』をはじめとして多数の著書があり、世界47言語に翻訳され、著書の発行部数は累計5000万部に達している医学博士で心理学者だ。

 本書の「はじめに」にはこう綴られている。

 1分間マネジャーが3つの秘訣を教えはじめた当時、トップダウン型のリーダーシップがあたりまえだった。
 今や、すぐれたリーダーシップはむしろ横並びの協調的関係といえる。
(P.10)

 問題は、「では、どうすればいいのか」だが、これがまさに極めて明快に書かれていくのである。

「結果」重視の上司と「人」重視の上司、どっちが優秀?

 本書の大きな特徴は、物語形式になっているため、実践的な方法論がするすると頭の中に入ってくることだ。マネジメントの方法論だけが書かれた1冊とは、読みやすさや読後感がまったく異なる。

 しかも、物語は一人の賢明な若者が、変化する現代の世界でリーダーシップとマネジメント力を発揮できるマネジャーを探す、というもの。自分自身を若者になぞらえて読み進めることができる。

 若者が探していたのは、特別なマネジャーだった。

 仕事と生活のバランスをよくし、仕事も生活もいっそう有意義で楽しいものになるよう、人々を勇気づけるマネジャーを探していた。
 そういう人のために働きたいと思い、自分もそういう人になりたいと思った。
(P.17)

 何年も探し歩いた。世界のすみずみまで訪ねつくした。小さな町にも、強大な国家の首都も訪れ、急速に変化する世界に対応しようと努力する多くのマネジャーと語り合った。経営者や起業家、官僚や軍人、大学の学長や財団の理事長、商店、レストラン、銀行、ホテルのマネジャーなど、老若男女を問わず話し合った。あらゆる種類のマネジャーのオフィスを訪ねた。

 そして、人材マネジメントの全体像がわかりかけてきたが、それでも自分が見聞きしたものに必ずしも納得できなかった。

「剛腕」のマネジャーは多かったが、その組織は成功しても、そこで働く人々は成功できずにいた。
「剛腕」マネジャーがよいマネジャーと考える人もいたが、そう思わない人もたくさんいた。
(P.18)

「剛腕」マネジャーに対して、若者が「自分はどんなマネジャーだと思いますか」と尋ねると、「結果重視」「現実的」「ビジネスライク」「コスト意識がある」といった言葉が返ってきた。

 一方で、「やさしい」マネジャーにもたくさん会った。

 そうしたマネジャーの部下は恵まれていたが、組織は成功できずにいた。
 部下たちはそんな上司をよいマネジャーと思ったが、上層部から見るとそうではなかった。
(P.19)

「やさしい」マネジャーに、若者が「自分はどんなマネジャーだと思いますか」と尋ねると、「協調型マネジャー」「部下を援助する」「思いやりがある」「人間的」という言葉が戻ってきた。

マネジャーは「独裁的」でも「民主的」でも中途半端

 剛腕マネジャーもやさしいマネジャーも、これまでずっとそうしてきたし、今後も変えるつもりはないと言った。前者からは結果へ、後者からは人間への思い入れが感じられた。

 これは学生の部活からチームの運営、経営まで、極めてわかりやすいマネジメントの2つのスタイルかもしれない。だが、そのどちらかではうまくいかないのだ。

 世界中のマネジャーのほとんどが、今までのやり方を変えず、結果か人間のどちらかをもっぱら優先しているように思われた。
 結果にこだわるマネジャーは「独裁的」、人にこだわるマネジャーは「民主的」と呼ばれることが多いようだった。
 若者は思った。「厳格で独裁的」でも、「やさしく民主的」でも、部分的にすぐれているにすぎない、いわば中途半端なマネジャーでしかないのではないだろうか。
(P.20)

 これは今もって、まさにマネジメントに悩む人たちのリアルな姿かもしれない。だから、上司・管理職のバイブルになったのだ。

 そして、その悩みを解決するべく、物語の中で若者が動いてくれるのである。

 若者には、大いなる強みがあった。自分が何を探しているかが、はっきりしていたのだ。
 変化の時代において最も有能なマネジャーとは、自分がいることで人にも組織にも恩恵を与える、そんなやり方で自分自身と部下を管理する人ではないか--そう若者は思った。
(P.20)

 そんなとき、ある卓越したマネジャーの噂を耳にする。部下はこの人のために働くことを喜び、しかも上司と部下が協力して偉大な成果をあげているという。

 さらに部下たちがこの人から教わった原理を私生活に応用すると、そこでも素晴らしい結果を得たという。

 その話は本当なのか。本当だとしても、その人は自分に秘密を語ってくれるのか。

 思い切って連絡を入れ面会を申し込んでみると、思わぬことが起きた。その場でマネジャーに電話をつないでくれるだけでなく、水曜の午前以外ならいつでも時間はあいている、と言われたのである。

 マネジャーともあろうものが、そんなに時間が余っているなんて……。こうして、特別なマネジャーへの面会へと物語は進む。(次回に続く)

(本記事は『新1分間マネジャー 部下を成長させる3つの秘訣』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。