会社帰りに立ち寄ったメイドカフェで
A課長が見たのは……

 9月下旬の金曜日。A課長は、「新製品の概要が決定して、仕事がひと段落着いた。皆、疲れているだろうから、今日はノー残業デーにしよう」と提案。17時過ぎ、全員が退社したのを確認してから自分も部屋を出た。そして「ずっと忙しくて会えなかったから、2カ月振りにC子ちゃんのところに行こう」とつぶやき、自宅方向とは逆行きの電車に乗った。

「お帰りなさいませ、ご主人様!」

 30分後、A課長はあるメイドカフェに入り、C子を見つけると上機嫌で手招きした。「C子ちゃん、久しぶり!今日もカレーライスとミルクティー、どちらも極甘で頼むよ」10分後、C子がオーダー品を運んでくると5分ほど雑談した。何回も話がしたいA課長は、その後もミルクティーをおかわりしてC子に運んでもらったり、記念写真を一緒に撮ったりした。

 A課長の趣味は、月に2回、仕事帰りにメイドカフェに通うことなのだ。この店は2年前からの行きつけだが、1年前に色白で笑顔がかわいいC子が入店してからは、彼女に会いたくて週2のペースで通い詰めるようになった。

「お会計は4000円になります」

 2時間後、料金を払おうとしたA課長は、レジに立っていた若い男性の顔を見て思わず叫んだ。

「B!どうしてここにいるんだ?」
「課長こそどうして……」
「ハハーン。さてはこの店でバイトをするために残業を断っていたんだな。仕事をサボッてバイトするとは、どういうことだ!」
「ちゃんとD部長からバイトの許可はもらっています。だから、残業を断ってもいいはずです」

確かにバイトの許可は与えていたが、
「休日だけ」の約束だったはず

 翌週の月曜日。A課長はD部長にBのバイト許可の件を尋ねると、8月中旬に休日だけカフェで働きたいとの申出があり、問題がないのでOKしたという。A課長は怒りをぶちまけた。

「休日どころか、平日の夜堂々とバイトに励んでますよ。私は偶然客として入り、本人と話をしました」

 さらに、バイトの許可が出ていることをダシにして自分の要請を聞かずに残業を拒否し、他のメンバーから不満が出ていることを話すと、D部長は「仕事をしないでバイトを優先するとはあきれた。そんな社員はクビだクビ!」と叫んだ。A課長はあわてて右手を左右に振り「クビじゃなくて、自分としてはB君に残業をしてもらえばそれでいいんです。部長、何とかなりませんか?」と頼んだ。

「分かった。明日E社労士が別件でここに来るから、その時に相談してみよう」