中小企業に対して、厳格な社会保険料の取り立てや差し押さえなどが、倒産の引き金を引いてしまう「社保倒産」。背景には、ちぐはぐな中小企業支援策の現状があった。もう一つの「2024年問題」と言われる社保倒産の深層レポート(後編)をお届けする。(共同通信編集委員 橋本卓典)
経営者を追い込む「預金口座差し押さえ」
日本年金機構による、しゃくし定規な社会保険料の取り立てによって、中小企業の倒産への引き金が引かれてしまう「社保倒産」。新型コロナウイルスまん延による経済の混乱で体力が衰えていた中小企業に“ダメを押す”ように滞納処分を進める年金機構の姿勢に対して、事業再生に取り組む現場からは懸念の声が上がっている。
滞納処分は、最終的に年金機構が事業者の財産調査などを行い、預金や売掛債権、不動産を差し押さえ、対象保険料を回収することもある。この段階で、中小企業の事業再生に深刻な影響を及ぼすのは、不動産ではなく預金口座の差し押さえだ。
事業再生に詳しい鳥倉再生事務所の鳥倉大介代表によれば、借り入れのある口座を差し押さえられると、期限の利益が喪失され、金融機関は回収モードに入らざるを得なくなる。そのため、事業再生は即座に頓挫する。
そんな事情を鑑みたとでも言いたいのか、年金機構は借り入れのない金融機関の預金口座を狙い撃ちして差し押さえに来ているという。年金機構なりの「事業存続への配慮」というわけだ。
しかし、これは「配慮」になっていない。借り入れのない口座を差し押さえられて、「期限の利益を喪失せずによかった」と安堵する経営者がどこにいるのだろうか。精神的なショックを受けて、追い詰められるのは確実だ。正常な経営判断も難しくなり、体調を崩したら経営再建どころではない。命を絶つ経営者も珍しくない。
資金繰りの不安から解放されなくては、まともな経営再建などできない。これが中小企業再建の現実であり、年金機構はそのことを全く分かっていない。