「年収の壁」対策は一時しのぎ、160万人分の“就業調整”解消には力不足Photo:PIXTA

「壁」乗り越えの支援で助成金
人手不足の解消には限界

 政府は、パートで働く人たちが社会保険料を負担しないように働く時間を抑え所得を調整する「年収の壁」問題の緩和に向けて、2年後の年金制度改革までの「つなぎ対策」を打ち出した。

 事業主への助成金を創設し、大企業のパート従業員らが働く時間を増やし保険料を払うようになっても「働き損」にならないように、従業員の賃金を増やしたり労働時間を延ばしたりした企業には従業員1人当たり最大50万円を支給。

 また働く時間を増やしても「一時的な収入増」であれば、2年間は扶養にとどまれるようにするものだ。

 深刻化する人手不足の緩和策の一環だが、一時しのぎの色合いが強く、この対策では、多くの非正規雇用者は労働時間を十分に延長することができず、人手不足は解消されない公算が大きい。

「年収の壁」による就業調整は、非正規雇用者約160万人分に相当し、経済全体の労働供給を1.4%も押し下げている。今後も人手不足で賃金上昇が続くことを考えれば、現状の制度のままでは「壁」に直面する人の数はさらに増え、労働供給は一段と減少する可能性がある。

 そもそも「年収の壁」問題は、専業主婦が多数派だった時代にできた社会保険などの制度が、多様な働き方が増えて現実に合わなくなった結果だ。

 問題解決には人手不足解消の観点以上に、税・社会保険における扶養制度のあり方を抜本的に見直すことが重要となる。