「地銀は株主ガバナンスも取り入れよ」守りに偏った経営は時代遅れ、地銀特化ファンド代表が提言ありあけキャピタル 田中 克典 代表
*本記事はきんざいOnlineからの転載です。

 本連載では、上場企業の代表やアセットオーナーなどへのインタビューを通じ、ステークホルダーとの対話や対外戦略におけるヒントを探っている。7回目は、地銀株式への投資に特化したファンドである、ありあけキャピタル代表の田中克典氏。

機能不全に陥っていた銀行のガバナンス

──足元で地銀株が大きく上昇しています。背景にはどのような要因や変化がありますか

 これまで銀行セクターは、マクロ要因によって変動していた。マイナス金利が銀行株の上値を抑えてきた。その後、日本銀行の黒田東彦前総裁の任期後半でインフレ率が2%を上回り始め、デフレからインフレ局面へと移ってきた。ここで金利に対する見方が変わり、結果としてマクロ要因としての銀行セクター全体の株価上昇が起きた。

 他方、ミクロ要因としては、多くの地銀が東証の市場再編でプライム市場を選択したことで、マインドセットが変わり始めていることも挙げられる。プライム市場は東証一部の横滑りと批判されることも多いが、現在の経営陣が自らプライム市場を選択した事実は重い。地銀の経営陣には誠実な方が多く、投資家・株主との対話を避けることはできないことを理解している。プライム市場への上場を主体的に選択したことが、市場・投資家との対話へと積極的になる契機になったと感じている。

──地銀が市場からより高い評価を得るためには、どうすれば良いでしょうか

 従来の「健全性を重視する預金者ガバナンス」に加え、「成長性・収益性も重視する株主ガバナンス」も取り入れた考え方に変化していくことが重要だ。通常の企業のガバナンスでは、リスクテイクを通じて成長を求める株主と、リスクテイクにブレーキをかけたい債権者の両方のチェックを受けることで、最適な資本構成を選択する。これに対し、過去、銀行セクターは特殊なガバナンス構造であったといえる。主要株主規制により「部外者から銀行は守られている」という理解から、銀行業界では株主ガバナンスが効きにくかった。もう一方のデットガバナンスは、「金融庁ガバナンス」であった。銀行における債権者は預金者だが、彼らは小口で十分な監督ができないため、金融庁が預金者保護という観点から主導的に「債権者ガバナンス」を実行してきた。株主ガバナンスが働かないので債権者ガバナンスが効果を発揮し、「自己資本をどんどん積み増せばよい」という帰結になり、健全性は増したがROE(自己資本利益率)は下がった。

 金融機能の正常化が最優先事項であったバブル崩壊直後はこれで良かったが、銀行の健全性が確保された現在では、当局の考え方も「普通の企業と同様に、株主からのガバナンスを受けるべき」というものに変わってきている。今後は、不健全だった時代の銀行ガバナンスから健全さを取り戻し、一般企業と同様に株主ガバナンスと債権者ガバナンスを両立させる意識が重要になってくるだろう。