超ミニマル・ライフとは、「どうでもいいことに注ぐ労力・お金・時間を最小化して、あなたの可能性を最大化する」ための合理的な人生戦略のこと。四角大輔さんの新刊『超ミニマル・ライフ』では、「Live Small, Dream Big──贅沢やムダを省いて超効率化して得る、時間・エネルギー・資金を人生の夢に投資する」ための技法が書かれてあります。本書より、誰とも競争せず自分のペースで歩き続けるための方法についてご紹介します。
非合理的な生き方は全く意味をなさなくなった
キャパオーバーの重荷を背負いながら、急げ急げと疾走する。「走っては倒れ、また走っては倒れ」を繰り返しながら、瞬間的なパフォーマンスしか出せない。
「経済は無限に成長し続ける」「働けば働くほど稼げる」というファンタジーを誰もが信じていた20世紀には、多くの日本人が休まず働いては仕事に命を捧げていた。
だが、「人生100年時代」と言われる21世紀において、この非合理的な生き方は全く意味をなさなくなった。
戦後期の日本人の平均寿命が50歳(※1)で、あなたはその倍近くを生きることになるのだから。
日本が抱える社会問題の根源は「働きすぎ」にある
余暇を大切にしてしっかり休む人の方が幸福度が高いことが、米国の複数の調査で明らかになっている(※2)。225の学術研究を分析した調査によると、幸福度が高い人は生産性が31%高く、創造性は3倍も高いという(※3)。
この調査結果を頭に入れて、次の指標を見てほしい。
日本人の睡眠時間は世界最短(※4)で、有給休暇消化率は先進国最低レベル(※5)、しかも、仕事に前向きな人は5%と世界最低水準(※6)で、労働生産性は先進国で下位グループだ(※7)。
そして、世界随一の物質的な豊かさを誇りながら幸福度はG7で最下位が定位置となっている(※8)。この現実を知ると、悲しくなってこないだろうか。
筆者は、日本が抱える社会問題の根源は「働きすぎ」にあると考えている。いや「忙しすぎ」そのものが最大の社会課題だ。
働く人の8割が強い不安やストレスを感じている
時間に追われているから、困っている人に手を差し伸べられない。これが「差別や格差、環境問題や気候変動などへの無関心」につながっているのではないかと。
みんな忙しくて「選挙に行かない」ため、日本は世界最低クラスの投票率だ(※9)。このまま民意を政治に反映できずにいると、民主主義の機能不全が危惧される。
忙しすぎて人の心を失い、つい「不正に手を染めて」しまったり、「自分が自分じゃなくなって」しまうことだってある。
身近なところでは、仕事ばかりで「出会いがない」「自分や家族を大切にできない」から生きる充実感を得られない。
そして最新の調査では、働く人の8割が強い不安やストレスを感じていて(※10)、4割が慢性疲労を抱えていることがわかった(※11)。この原因の大半は、忙しくて「まともに食事ができない、運動できない、眠れない、休めない」ことにあると推察している。
1つの山脈を何日も歩き続けるバックパッキング登山の思想
当たり前のことを忘れないでほしい。
ちゃんと食べて運動し、しっかり休んで眠り、必要最低限の生活費を稼げて時間に余裕さえあれば、誰も「自分自身」や「人間の良心」を見失うことはないということを。
休まず全力で走り続けてイノベーションを起こし、短命で散る生き方もあるだろう。ジャンヌ・ダルクや吉田松陰、Apple創業者のスティーブ・ジョブズのように。
でも「そんな偉人になれなくてもいい」と誰もが思うだろう。
本書の根底には、いくつもの山を越えて、1つの山脈を何日も歩き続けるバックパッキング登山の思想が流れている。
誰とも競争せず自分のペースで歩き続ける「ロングスロー・ディスタンス術」
この登山を30年近く続けてきた筆者は、最小限の装備だけを背負い、誰とも競争せず自分のペースで歩き続ける「ロングスロー・ディスタンス術」だけが、長く険しい山道を踏破する唯一の方法だと知っている。
人生100年時代に必要なのが、この「ロングスロー・ディスタンス思考」であり、これこそが「システムとの決別」の鍵を握る。
「ロングスロー・ディスタンス術」を働き方と生き方にも導入する
呼吸を乱さずゆっくり長く走るジョギング法にルーツがあるこの思考術を、筆者は登山における歩き方だけでなく、働き方と生き方にも導入している。
まさに、本連載で伝授していく「超ミニマル・ライフ」の原点と言っていいだろう。
ガソリンを大量に燃やす非効率な大型エンジンで、周りを蹴散らしながら頑張る。体力があった若い頃、あらゆる犠牲をいとわず頑張り何とか成果を出せたが「一発屋」で終わってしまった。年老いてから、その武勇伝を繰り返し自慢するオジサンになる。
今やそんな生き方は合理性に欠けるし、迷惑でしかない。
「不要な荷物は背負わず、必要最小限の装備は身に付けて、快適な身軽さを維持し続ける
枯渇することのない、再生可能なグリーンエネルギーを利用して静かに駆動し続ける小さな省エネモーターのように、周りからは「決して派手ではないが、あいつは信頼できる」と言われ続ける──今まさに求められるのは、そんなスタイルだ。
こうまとめればより伝わるだろうか。
「不要な荷物は背負わず、必要最小限の装備は身に付けて、快適な身軽さを維持し続ける」
「評価は気にせず競争もせず、組織や社会にも振り回されず、いいペース配分を守り続ける」
これは本連載の指針でもあるので、ぜひ覚えておいてほしい。
(本記事は、『超ミニマル・ライフ』より、一部を抜粋・編集したものです)
【参考文献】
※1 厚生労働省「簡易生命表」
※2 Gabriela N. Tonietto, Selin A. Malkoc, Rebecca Walker Reczek c, Michael I. Norton. “Viewing leisure as wasteful undermines enjoyment.” Journal of Experimental Social Psychology. Volume 97, November 2021, 104198
※3 Lyubomirsky Sonja, King Laura, and Diener Ed.,(2005). The benefits of frequent positive affect: Does happiness lead to success? Psychological Bullutin, 131(6), 803-855.
※4 Japan Data「40代の半数、睡眠時間は6時間未満:OECD調査でも世界最短水準」(2019)
※5 エクスペディア「世界16地域 有給休暇・国際比較 2021」(2022)
※6 日本経済新聞「日本の『熱意ある社員』5% 世界は最高、広がる差 米ギャラップ調査」(2023年6月14日)
※7 公益財団法人 日本生産性本部「労働生産性の国際比較2022」(2022)
※8 Sustainable Development Solutions Network「World Happiness Report 2023」
※9 FNNプライムオンライン「投票率 日本は世界139位 高い投票率の国には意外な理由が…“シルバー民主主義”では活力低下に」(2021年10月25日)
※10 厚生労働省「令和4年労働安全衛生調査(実態調査)」
※11 一般社団法人日本リカバリー協会「休養・抗疲労白書2022」(2023)