日本と中国は政治的な溝だけでなく、ビジネス間の溝も深まっている。「政治、外交がダメでもせめてビジネスでは」――と期待する日本のビジネスパーソンも中国の現状に落胆する。この状況に、追い打ちをかけるのが中国の改正「反スパイ法」だ。今年7月の導入から3カ月あまりがたつが、互いを疑心暗鬼にさせる同法は、日中の経済交流にますます深刻な影響を及ぼしそうだ。(「China Report」著者 ジャーナリスト 姫田小夏)
中国の社会システムからはじき出される日本人
この夏中国へ渡航した日本からの出張者が続々と帰国した。現地事情についての情報交換が行われる中、長年にわたり日中間を往来する出張者が異口同音に語るのは「中国の現状は想像を超えていた」ということだ。
北京に出張した人は、北京五輪当時、急ピッチで新設された北京首都国際空港のターミナルについて「ほこりまみれで劣化が激しい」と驚いた。また、上海に出張した人は、宿泊先の老舗ホテルについて「コロナ禍の消毒液の影響で壁やエレベーターのボタンがボロボロ」と、痛ましい変化に眉をひそめる。今や住人がいなくなった「幽霊マンション」はどこにでもあり、企業倒産も珍しくない。
出張した日本のビジネスパーソンたちが問題にしたのは、景気の悪化だけでなかった。
2010年代に上海の現地法人で総経理を務めた経験のあるA氏は、「中国はもう外国人が生活できる場所ではありません。現地に信頼できる中国人がいなければ、外国人は“行き倒れ”になるリスクさえあります」と、中国出張を振り返る。
「コロナ前まで、私は中国の決済アプリでキャッシュレス決済を行っていましたが、今回の渡航では銀行認証が厳格化されて使えませんでした。訪問先の中国東北部でも現金はほとんど使えず、必要なものは友人の中国人のスマホで立て替えて買ってもらいました」
買い物先や観光地、タクシーや鉄道で――中国社会で成熟する決済システムや予約システムからすっかりはじき出された出張ベースの外国人は、現地に家族や親類、友人がいる場合を除いて、相当の不便を強いられるという。
「外国人が強いられる不便さ」はすでにビザ申請の時点から始まっていた。福岡県在住のB氏は「ビザ申請書には昔の職場の上司の連絡先どころか、他界した親の情報まで記入させられ、申請書を提出してからは3回も修正させられました」とあきれる。複雑な申請は外国人を遠ざけるには効果的だ。