「反スパイ法」の裏に“外国人アレルギー”
19世紀の半植民地化を経験し、20世紀の東西冷戦では「竹のカーテン」で閉ざされた中国だが、ここに来て“外国人アレルギー”はますます高まっている。
そのきっかけの一つが、今年7月に施行された中国の改正反スパイ法だ。同法はスパイ行為の定義を拡大したもので、「国家機密または国家情報、そのほかの国家の安全と利益に関する文書、データ、情報および物品の窃取、偵察、買収、または不法に提供する活動等」といった文言などが盛り込まれた。
中国では国家安全部による「怪しい活動をしている人物がいればただちに当局に通報せよ」とする文書がネット上に掲載され、7月以降、国民を動員しての“スパイ封じ込め”が一段と強化されるようになった。
浮き彫りになるのは外国人への警戒だ。中国政府は「外国には、中国の社会主義制度を転覆し、台頭を阻止したい勢力が存在する」という認識を持ち、スパイは外国から送られてくることを想定している。
実際、近年中国では、全く知らない外国人がメールやSNSを使って中国人に接触し、中国の軍事機密を調べさせる「スパイ行為」が後を絶たないと中国メディアが報じている。
“外国のスパイ”が狙うのは、政治、経済、国防、最先端技術などを専門にする大学生が多いといい、9月の新学期には中国の各大学で、スパイを見つけた場合の通報方法、国家の安全を脅かす行為を特定する方法などを教える特別講座が設けられた。
大学生は「金欲しさ」に機密を売り渡してしまう傾向があるというが、最近の就職難や経済難を思えば、報酬目当ての情報売却の増加は容易に想像がつく。
国家安全保障に詳しい中国人専門家の投稿記事によると「中国人に対する外国のスパイの要求は、最初は『市内の風景を撮影してほしい』という簡単なものから始まり、次第に港や造船所を撮影してほしいとエスカレートを見せ、与える報酬も多額なものになる」という。
中国当局による取り締まりは強化されている。今年8月、国家安全部は、中国で軍事機密プロジェクトに従事していた女性を、海外でスパイ活動を行っていた容疑で逮捕した。女性は渡航先のイタリアで米国の駐イタリア大使館員と食事などを通して緊密になり、米国移住と引き換えに軍事機密情報を売り渡したという。大使館員はCIAの職員だった。
3月には日本の製薬会社の中国駐在員が反スパイ法違反で拘束され、4月には中国共産党系の新聞「光明日報」の幹部が、北京で日本大使館の職員と面会した直後に中国当局に拘束されるなど、物騒な事件は中国の日本人社会の身近なところに及んでいる。