ROIC経営実現のための取り組み2
ポートフォリオマネジメント
ポートフォリオマネジメントについては、経済産業省の事業再編実務指針とまったく同様の取り組みである。というより、オムロンの取り組みを経済産業省が参照しながらポートフォリオ最適化のための実務指針をとりまとめた、と言っても過言でない。実際に経済産業省の実務指針の資料では、オムロンを取り組み事例の1つとして、何度も言及している。
オムロンは、限られた資源を最適に配分するために、「経済価値評価」だけではなく、「市場価値評価」も行うことで、各事業ユニットの成長ポテンシャルを見極められ、より最適な資源配分を可能にするとしている(図表3)。
また、図表4によると、オムロンは63の事業ユニットについてROICの算出を行っていることがわかる。売上高の規模によらず、4象限フレームワークに満遍なく事業ユニットが存在していることも読み取れよう。
オムロンは『統合レポート2015』の中で下記のように述べている(*2)。
ROICの概念を頭で理解できても、取り組みは個別最適や縮小発想になりがちである。こうした活動は単純に知識を伝えるものではなく、伝えた知識をベースに改善のアイデアを現場でともに考え、発展させることを意図したものである。
また、ROICの難解な計算式を社員に理解してもらうため、オムロンの社憲にある「われわれの働きでわれわれの生活を向上しよりよい社会をつくりましょう」を具現化するものがROICであることを示す翻訳式を策定した(図表5)。これにより、ROICは唐突にあらわれた経営指標ではなく、会社創業以来オムロンが大切にしてきた社憲を遂行するための経営指標であることの浸透を図っている。
オムロンによる、ROIC道場、伝道師、翻訳式といった一連の取り組みは、ROIC経営を社員一人一人が理解し、納得し、行動してもらうことがいかに重要であり、またいかに容易でないかを物語っていよう。
これは決してROICに限定した話ではない。経営指標を構築することも大切だが、それをいかに社員一人一人による現場レベルでの活動によって実現するのか。言わば、Post KPI Setting Activities(KPI設定後の企業活動)には、さらに何重にも高いハードルが待ち受けていることを、KPIの設定側も理解しておくことが肝要である。オムロンによる各種の取り組みは、そうした課題への示唆を与えてくれるものであろう。
(本稿は、『企業価値向上のための経営指標大全』から一部を抜粋・編集したものです)
*1 オムロン「統合レポート2020」
*2 オムロン「統合レポート2015」