写真:ガザ,イスラエルによる空襲で煙が上がるPhoto:Ahmad Hasaballah/gettyimages

イスラエルとパレスチナ自治区ガザで“戦争”が始まった。ユダヤ教徒とイスラム教徒の「共存」と「敵対」の歴史を振り返り、西側諸国はどんな観点で着地を見いだすべきか、世界97カ国で学んだ元外交官がわかりやすく解説する。(著述家/国際公共政策博士 山中俊之)

ユダヤ教徒とイスラム教徒
昔は「敵」ではなかった

「ずいぶんと鬱屈した雰囲気だな…」。1990年代、筆者がパレスチナ自治区ガザを訪問した時の率直な印象だ。ちょうど当時は、ハマスがガザ地区で影響を持つようになっていた。

 ガザは、鹿児島県の種子島ほどの狭い地域に人口200万人余りが暮らす人口密集地である。さらに、外部との出入りは規制され、失業率も高い。筆者は世界97カ国を訪問する中で、多くのスラムや貧民街、農村にも足を運んでいるが、この地は何とも独特だった。イスラエルとの長年の紛争による人々の憤りも含め、まさに自由が奪われた「天井のない監獄」であることを現地で実感した。

 さて、筆者が行う企業研修で、世界情勢を学びビジネスへのヒントを議論する際に、しばしば投げかけられる質問がある。「ユダヤ教徒とイスラム教徒はずっと戦いを繰り返してきたのですよね?」と。いわば、不俱戴天(ふぐたいてん、恨みや憎しみが深いこと)の敵なのかということだ。

 しかし、歴史的に俯瞰(ふかん)すると、両宗教の信徒の関係は必ずしも悪かったわけではない。むしろ同じ土地に共存し、文化交流があった。潮目が変わったのは、約130年前のある出来事がきっかけだ。それに追い打ちをかけたのが、ナチスのユダヤ教徒大虐殺(ホロコースト)であり、ユダヤ教徒への「同情」が国際的に高まった。1400年にわたる歴史の局面を振り返ってみよう。