Photo by Hiroyuki Oya
「これが“あの国営放送”が目を付けたマシンか」──。
1月上旬、米国ラスベガスの国際家電見本市「CES」のキヤノンブース。関係者の間でひそかに注目が集まった製品がある。同社が2012年1月に販売を始めた業務用ビデオカメラ「シネマEOS」シリーズだ。
シネマの名を冠することからわかるように、メーンターゲットはハリウッドに代表される映画業界。だが、発売から1年。思わぬ上客が現れた。「BBC(英国放送協会)が数十台単位で購入した」(業界関係者)というのだ。12年の売り上げは当初予測の5割増を達成。地域別では、欧州の販売成績がトップになったそうだ。
シネマEOSは、同社のデジタル一眼レフカメラの技術をベースに開発され、動画撮影に特化した製品だ。現在は6機種あり、価格は55万~230万円。キヤノンの一眼レフカメラ用のレンズを利用できることも特徴だ。
開発に当たり映画監督やカメラマンなどへの聞き取りを重ね、「持ちやすさや操作感、画質など、映画業界の声を徹底的に反映させた」(キヤノン幹部)。
そのカメラに目を付けたのが、BBCだ。高い画質はもちろんのこと、小型で持ち運びやすく、さまざまなアングルで撮影可能なため、インタビューなど報道現場での使い勝手がよいと高評価を得ているという。
キヤノンは、放送用カメラに搭載するレンズは手がけているものの、カメラ本体はソニーやパナソニックの牙城。シネマEOSの採用を契機に、カメラ本体も手がけることができれば、保守点検も含めた新たなビジネスが広がる。
シネマEOSは国内でも映画やCM、テレビドラマの現場で採用され始めている。13年は前年比で5割増の売り上げを見込む。
キヤノンの御手洗冨士夫会長兼社長も、2月末の経営方針説明会でシネマEOSを紹介し、「将来有望な事業のつぼみが育っている」と胸を張った。はたしてキヤノンを支える新たな柱になれるか。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 大矢博之)