AIに仕事を奪われないライターの条件とは何か――。
ベストセラー『読みたいことを、書けばいい。』の著者で、出版社「ひろのぶと株式会社」の代表を務める田中泰延氏が、古賀史健氏と「書くこと」について対談をおこなった。古賀氏は、『嫌われる勇気』の共著者であり、最新刊『さみしい夜にはペンを持て』(ポプラ社)が大きな話題を呼ぶ業界屈指のライターだ。旧知の仲でもある二人が「自分にしか書けない文章」の正体を語る全4回の連載。第1回では、多くの人が陥りがちな「どこかで見たことのある文章」の共通点を語る。
文章に個性は必要だが、「自分語り」は読まれないという。では、どうすればいいのだろうか?(司会/谷綾子、構成/水沢環、編集・撮影/今野良介)

ベストセラーライター2人が語る「AIに取って代わられる文章」の特徴

「AIに取って代わられるに決まってる」文章とは

――古賀さんと田中さんは旧知の仲だと聞いていますが、正面から「書くこと」についてお話しされたことはあるんですか?

古賀史健(以下、古賀) うーん、あらたまって話すというのは、たぶんないと思います。ありましたっけ?

田中泰延(以下、田中) ないない。恥ずかしいもん。

――今回が初めてなんですね。

古賀 そうですね。

田中 いかにも。

――最初にぜひ伺いたいのが、ChatGPTの話なんです。最近、ライターや編集者の間では生成AIの話でもちきりです。お二人も利用されたことはありますか?

田中 わたしはもっぱら大喜利に使っています。くだらない質問を入れると、ちゃんとくだらないギャグを返してくるんです。

ベストセラーライター2人が語る「AIに取って代わられる文章」の特徴田中泰延(たなか・ひろのぶ)
1969年大阪生まれ。早稲田大学第二文学部卒。株式会社 電通のコピーライターとして24年間勤務し退職。著書に『読みたいことを、書けばいい。』『会って、話すこと。』がある。2020年、「印税2割」「本を書く人が生活できる社会を」を掲げる出版社「ひろのぶと株式会社」を設立、代表取締役社長に就任。

古賀 僕も試してみたことはあります。『さみしい夜にはペンを持て』の執筆中に、本と同じ設定で「中学生のタコとヤドカリのおじさんが出会う物語を書いてください」と頼んでみました。僕の本の話はすでにできあがっていたんですが、ChatGPTが出してきたあらすじを読んで「悪くないじゃん」と思ったんです。もちろん文章表現は人間には及ばないんですが、基本のストーリーラインをつくる能力はあるんだなと感心しました。

――そうなんですね。一瞬で文章が書けて、ギャグも返せて、ストーリーラインも作れて……。今後さらに発展していくとしたら、「将来ライターという職業はAIに取って代わられるのでは」と懸念するライターも多いのですが、その点はどう思われますか?

古賀 僕は、まず「ライター」の定義によると思います。たとえば、SEO対策に長けたwebライターの方々がいますよね。

――はい。「読まれる記事」を書くのが得意なライター。

田中 田中さんの力で「バズる文章」を書いてください、という依頼がどっさりきます。

古賀 クライアントにとってもちろんSEO対策は大切でしょうけれど、そもそもSEO対策を講じる「相手」は検索エンジンです。つまり、最初の読者は人間ではなくコンピュータなんです。その意味で、SEO対策に注力することは、文章を書くというより「プログラムを組む」作業に近づいていきます。

――たしかに。

古賀 そして、検索エンジンに読ませるための原稿ならば、最適解は誰が書いても同じになるはずなんですよ。そうであるなら、書くのは「自分」じゃなくても構わない。もっと言えば、人間じゃなくても構わない。そういう「その人が書く理由がない文章」、言い換えれば「“わたし”がまったく入っていない文章」が今、大量生産されて世の中に出回っています。そういう仕事は、どこかの段階でAIに取って代わられるに決まってますよね。

ベストセラーライター2人が語る「AIに取って代わられる文章」の特徴古賀史健(こが・ふみたけ)
ライター。株式会社バトンズ代表。1973年福岡県生まれ。1998年、出版社勤務を経て独立。著書に『嫌われる勇気』(共著・岸見一郎)、『取材・執筆・推敲』、『20歳の自分に受けさせたい文章講義』、『古賀史健がまとめた糸井重里のこと。』(共著・糸井重里)などがある。2014年、ビジネス書ライターの地位向上に大きく寄与したとして「ビジネス書大賞・審査員特別賞」受賞。2015年、ライターズ・カンパニーの株式会社バトンズを設立。最新刊『さみしい夜にはペンを持て』

田中 わたしは就活指導の仕事もよくお引き受けするんですが、そこでも同じようなことを思います。エントリーシートに書く内容も、面接で話す内容も、みんな同じなんですよ。「いいエントリーシート」や「いい受け答え」の型があって、その型通りにしなさい、とプログラム化されている感じ。

――そういう参考書もたくさんありますよね。

田中 そう。判で押したように「私はリーダーシップがある人間です。学生時代はなんとか部でキャプテンを務め、県大会二位まで行きました。御社のお役に立てると思います」って。

古賀 『読みたいことを、書けばいい。』にも書いてありましたけど、みんなが同じ型で面接に来るから、型を外してきた人のほうがまず面接官の印象に残るんですよね。「自分がちゃんと表現されているか」のほうが大事なので。

――それは、ライターの原稿でも同じなんですか?

田中 そうなんです。わたしが文章を書くことにおいて「みんなと同じ」がつまらないと思ったのは、小学校のときでした。『走れメロス』の読書感想文を書く宿題があったんですけど、みんながあらすじを書いて「感動しました」「偉いと思いました」とか書いていた。それじゃあおもしろくないと子ども心に思ったんです。

古賀 「書評」とされているweb記事にも、そういう文章は多いですよね。

――田中さんはどんな読書感想文を書いたんですか?

田中 『走れメロス』の中で、どうしても気になる文章があったんですね。何気ない場面にあった「ふと耳に、潺々(せんせん)、水の流れる音が聞えた。」という一文。「とにかくここが、僕はすごく気になりました」と感想文を書きました。

――全体のあらすじとかは書かずに、そこだけにクローズアップしたんですか。

田中 はい。「自分が何に感動したか」を大事にして書くという姿勢は、今もまったく変わっていないと思います。

古賀 僕が『嫌われる勇気』を書いたときも近い部分がありました。あの本は、とにかく僕自身の悩みを徹底的にクローズアップして書いたんです。同じ悩みを抱えている人は僕の周りにはいなかったから、マニアックなテーマかもしれないなと思っていました。

――それがあれほどのベストセラーになったのは意外に感じます。できるだけ幅広い人に当てはまるよう悩みや話題のバリエーションを広げていったほうが、よりたくさんの人に届く本になるんじゃないんですか?

古賀 僕はむしろ「閉じる」イメージのほうを大事にしています。そうしないと切実な話にならない。たとえば「100人に1人しか共感しない本」と聞くとすごくニッチな気がするけども、分母が1億人だったら100万人が共感してくれるわけです。そして100人に1人しか共感しない本は、100人のうち30人が薄く共感する本よりも圧倒的に力があるんです。その1人は「これは自分の本だ! これがほしかったんだ!」って強く思ってくれますから。「自分はピンとこないけど、こういう悩みを抱える人もいるだろう」みたいな視点で、「みんなの悩み」をたくさん書いても、普遍的にはならないんですよ。

――それはどうしてですか?