「ちょっと病んでる人たちは6人に1人です」
そう語るのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)
ちょっと病んでる人たちは「6人に1人」
メンタルが不安定な人は、どれだけ身近にいるのでしょうか?
少しだけ、その背景について説明しましょう。
厚生労働省の発表によれば、現代の日本では精神疾患を抱える人が少なくとも400万人以上いるといわれています。
全人口のおよそ4%もの人が精神疾患を抱えており、精神疾患が日本の5大疾病に数えられるなど、今や社会問題になっています。
いかがでしょう。けっこう多いですよね?
そして精神疾患を抱える人の裏には、病気とは診断されないけれど「ちょっと病んでいる心の不安定な人」が実際に病気の方の5倍、およそ2000万人以上いると言われています。
ちょっと病んじゃってる人たち、病気じゃないけど病気になりそうな人、「ARMS(At Risk Mental State)」と呼ばれる人です。
このARMSは、ちょっと頭のなかが「メンヘラなとき」がある、というような生きにくさを感じる普通の方々なのです。
「メンヘラ」という言葉の便利さ
「メンヘラ」という言葉は、インターネットのスラング(俗語)で使われるようになったのが始まりです。
メンタルヘルス(精神衛生)という言葉をもとに、「メンタルヘルスに通ってそうな人」という意味でつくられました。
インターネット上で便利な言葉として使われるようになったメンヘラですが、いつしかインターネットの垣根を越えて、現実でも使われる機会が増えています。
「メンヘラ女子」や「メンヘラ彼氏」といった言葉が流行するようになり、「自称メンヘラ」と、自分を表現するようにもなりました。
メンヘラがこれほど広がった理由は、その便利さにあります。
ちょっと病んでそうな人、話が合わない人に対しての「侮蔑」としてメンヘラが使われるようになり、SNSでのネタにしやすいこともそれを加速させました。
「ふつうに生きているだけなのにツラい」と感じたり、不安定なときを表すために「メンヘラ」を自称し、小説やアニメ、ゲームのカテゴリーとしても広く利用されるようになっています。
メンヘラのカテゴリーとしての幅は非常に広く、多くの人が自分はメンヘラであると考えていたりするのです。
だったら、それを逆手に取りましょう。
ネガティブ思考は「悪いこと」じゃない
ここで重要なのは、「メンヘラ」が悪いというわけではないことです。
心が不安定になったり、ネガティブな感情を持つことは、誰にでもあります。
それなのに、自分の感情がネガティブになることを悔いたり、申し訳なく感じることがあるのです。
私は精神科医として、さまざまな方のお話を聞きます。
そして、多くの方が自分の感情について語る際に、
「ネガティブになってしまってごめんなさい」
と語る傾向にあることを問題に感じます。
精神的な治療やカウンセリングをおこなう目的は、「自分自身が持つ幅広い感情を受け入れて、それを表現できるようになる」ということにあります。
しかし、「ポジティブに考えなければならない」という社会的なバイアス(偏見)が存在しているのでしょう。
じつはメンタルヘルスの観点からみれば、ネガティブな感情を持つ人ほど、それを受け入れることで、非常に大きなメリットが得られることがわかっています。
だから、ネガティブな感情が出てきたときは、あと一歩の考え方が必要なんです。
人間の悲しみや怒りの感情は、人間の人生において重要な要素です。
そして、その自分の人生の一部を受け入れてあげることは、心を安定させるためにもっとも重要な「受容」というプロセスの一部なのです。
あまりにポジティブさを強調し、ムリにポジティブに振る舞うことは、人生の複雑さや「ひどさ」を拒絶することにほかなりません。
そうした問題を解決するアイデアが、まさに、
「頭んなかがメンヘラになっている!」
と、客観的に自分を見るようにして、ネガティブさを感じている自分を、拒絶するのではなく受け入れることなのです。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』より一部を抜粋・編集したものです)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。