イクメンという言葉が流行って久しい。男性も仕事ばかりではなく、子育てに参加するという考え方は、男女平等で共働きの時代には正しい考え方なのかもしれない。
だが、一方でイクメンを演じるのに疲れてしまい、燃え尽き症候群に陥る男性もいるとか。
このたび、『カヨ子ばあちゃんの うちの子さえ賢ければいいんです。』を刊行した「脳科学おばあちゃん」久保田カヨ子氏(80)が、イクメンブームについて語ってくれた。

大雨なのに講演会が満員の理由

久保田カヨ子(くぼた・かよこ) 1932年、大阪生まれ。脳科学の権威である京都大学名誉教授・久保田競氏の妻で2人の息子の母。約30年前に、日本における伝統的な母子相伝の育児法を見直しながら、自身がアメリカ在住時と日本で実践してきた出産・育児経験をもとに、夫・競氏の脳科学理論に裏づけされた独自の久保田式育児法〈クボタメソッド〉を確立。テレビなどで「脳科学おばあちゃん」として有名。著書に、『カヨ子ばあちゃん73の言葉』『カヨ子ばあちゃんの男の子の育て方』など。ズバッとした物言いのなかに、温かく頼りがいのあるアドバイスが好評。全国からの講演依頼もあとをたたない。

 ちょっと前の話です。

 前日まで晴れていたのに、夜中から天候が崩れて、当日は突風混じりの大雨。
 そんなある平日に、私のミニ講演会が開催されました。
 このように天候が崩れると、講演会の人出は一気になくなります。
 この日も当然、定員に満たないだろうとスタッフ一同、話をしていたのですが、蓋を開けてみれば、通常の2~3倍もの人出で会場が埋め尽くされました。

「いったい、どうしたことだろう?」

 そう思って会場を見渡してみると、その原因がわかりました。

 育児セミナーですから、基本的にはお母さんとお子さんに参加いただくのですが、これに加えて、お父さんやおじいちゃん、おばあちゃんがつき添ってきたのです。

「今日、会場にいらっしゃっているお父さん、お仕事は?」

 と問いかけると、ほとんどのお父さんが「休みました」と答えました。

 大雨ということもあって、急きょ会社を休んで運転手を買って出たのか、あるいは今日に合わせて休みを取ったのかもしれません。
 
 男女共同参画が声高に叫ばれ、いまや20代、30代の既婚者家庭においては、専業主婦を見つけるのが非常に困難といわれています。
 大半の家庭が共働きです。そのような家庭環境のもとでは、なかなか奥さんからのリクエストを断り切れないというのが実情でしょう。

 しかしながら、私は、昨今の過熱気味なイクメンブームには賛同しかねます。

 世間一般では、イクメンを亭主の鏡と受け取る傾向がありますが、イクメンのなかには“燃え尽き症候群”に陥る人もいると聞きます。言うなれば育児疲れですね。

 お父さんが育児ノイローゼなどにかかったら、元も子もありません。
 特に若いお父さんは、これから一家の柱になって、収入と社会的信用を得るために、仕事にまい進していく必要があります。

 おそらく世の中の多くのお父さんは、「イクメンにならなければ」という強迫観念にかられているのではないでしょうか。
 私は、イクメンブームに対して、このように言いたいのです。
 メディアなどの情報に踊らされず、夫婦ともども「ウチはウチ、他人は他人」という考え方を持つことはできないものだろうか、と。

 お父さんにとって、一番に優先させるべきは、やはり仕事だと思います。
 なんと言っても、生活の糧を保たなくてはなりません。

 そして、ママが専業主婦ならば、パパの分まで育児に専念すればいいでしょう。
 もしママも、パパと同じくフルタイムで働いていて、収入もパパと同じくらいなら、2人で話し合って、仕事も育児もフィフティ&フィフティに分担すればいいのです。