「毒親の影響」を乗り越えるための魔法とは?
結論から言うと、「指示待ち人間である」と自覚した時点で、そこから時間はかかりながらも徐々に自分を変えることが可能です。
自分で気づくことが何より重要です。
ここで大切なのは、すぐに何かを変えるのではなく、
「どうして指示待ち人間と言われるんだろう?」
と一度立ち止まって自分を見つめることです。
その上で、「なんとかしたい!」と、「理性的な自分」が自分のネガティブな性格を見つめられた時点で、人は変わり始めるのです。
シンジさんは、4つのステップに合わせて克服していきました。
① 自分の理想をイメージする
シンジさんには、まずは「理想の自分」を想像してもらいました。
「仕事で自分からアイデアを提案し、それが認められる自分になりたい」
そんな妄想をしてもらいました。
② 感情を数字で観察する
それではなぜ、アイデアを提案することが今までできなかったのでしょう。
そこで、どうして自分が動けないのかを一日の数字によって振り返ってもらいました。
上司に話しかけないといけないとき、
「30分以上、頭のなかでシミュレーションをしてしまっている」
ということに気づきました。
自分が言ったことが「恥ずかしい」のではないかと思ったり、「怒られたくない」と怖がっていたのです。
人は、羞恥心や恐怖心を感じたとき、行動ができなくなってしまいます。
さらに、一日を振り返っていき、どの時間帯なら話しかけやすいかを考えます。
結果としては、朝や夕方を避けて、昼食後の休憩時間であれば、比較的スムーズに話していることに気づきました。
③ ジンクスの魔法を作ってみる
ランチの後の休憩時間なら話しかけやすい。そのことに気づくことができたシンジさんには、さらに楽しくて続けたくなるようなジンクスを考えてもらいました。
その結果、
「ランチ後、テンションの上がる曲を1曲だけ聴いてから話しかけると、仕事がうまくいく」
というジンクスを取り入れて、上司に話しかけるときの羞恥心や、恐怖心というハードルを下げることにしました。
④ 失敗しても繰り返してみる
そんなジンクスによって、彼のほうから上司に話しかける機会が増えました。
音楽を聴いてテンションを上げてから話すことで、上司からの見え方も変わってきます。
ときには、「いま忙しいから」と、面倒がられることもあったかもしれません。
ただ、失敗しても繰り返せることが、ジンクスの強みです。
もう一度、タイミングを見て、音楽を聴き直してから話しかけてみればいいのです。
そうすることで、いつしか「自分からアイデアを提案できる社員」になることができ、やがてそのアイデアが採用されることがありました。
ここまでくれば、もう大丈夫です。1つのハラ落ちする体験が、理想の自分へと変えていってくれたのです。
こうしてシンジさんは、自分が納得するジンクスを作ることによって、羞恥心や恐怖心に立ち向かうことができました。
そして、自分だけでなく周囲の評価まで変えるに至ったのです。
毒親が与えたトゲが足に刺さると、歩くたびにそれが痛むように、人間のネガティブな考え方のクセは「自動思考」として思考するたびに無意識に生じます。
そんなトゲを抜いて、前向きなジンクスをつくっていく。
そのためには、
「認知」→「感情」→「行動」→「廻転」
という、4つが必要なのです。
それをステップに落とし込んだのが、先ほどの4つでした。
ステップ1 自分の理想をイメージする
ステップ2 感情を数字で観察する
ステップ3 ジンクスの魔法を作ってみる
ステップ4 失敗しても繰り返す
という流れです。
毒親が与えてしまった「頑固なネガティブ」ですら書き換えられる方法として、ぜひ覚えておいてください。
(本稿は、『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』より一部を抜粋・編集したものです)
精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10〜20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。