「いつか自分は捨てられる」
そんなメンヘラな悩みに回答するのは、これまでネット上で若者を中心に1万人以上の悩みを解決してきた精神科医・いっちー氏だ。「モヤモヤがなくなった」「イライラの対処法がわかった」など、感情のコントロール方法をまとめた『頭んなか「メンヘラなとき」があります。』では、どうすればめんどくさい自分を変えられるかを詳しく説明している。この記事では、本書より一部を抜粋・編集し、考え方次第でラクになれる方法を解説する。(構成/種岡 健)

「いつか自分は捨てられる」→メンヘラな悩みに“精神科医”ならどう答える?Photo: Adobe Stock

「メンヘラ」になるとき

 メンヘラと聞くと、ある特定の人のことを思い浮かべるかもしれません。
 しかしその特徴を見てみると、

●「不安定な感情になるときがある」
●「極端な思考になるときがある」
●「コミュニケーションを取るのが苦手」

 など、じつは「誰しもが一度くらいは感じるもの」ということに気づくでしょう。
 そこで、メンヘラを自分ごとに感じていただくために、ある人の話を紹介しようと思います。

「いつか自分は捨てられる!」

 これは、私が出会ったある女性のエピソードです。
 その女性は、家庭環境が少し複雑で、両親が家族としての機能を果たしていない、「機能不全家族」のもとで育ちました。
 たまにヒステリックなときがある母親と、ほとんど家にいない父親のもと、部屋が1つだけのアパートで幼少期を過ごしました。
 小学生の頃から徐々に、「母親なんかいなくなればいいのに」という感情と、「母親に甘えたい」という感情が入り混じっていることを自覚してきたそうです。

 ある日、クラスで盗難事件があり、彼女が盗んだのではないかと疑われました。
 彼女は反論しましたが、複数のクラスメートが「彼女が盗ったのを見た」と証言したそうです。
 じつは、彼女にとっての一番の友達がSNSの裏アカで彼女のことを誹謗中傷し、それを本気にしたクラスメートが彼女を告発したのです。
 一番の友達に裏切られた体験をし、家にも学校にも、自分には居場所なんてないと感じたそうです。
 そして、世界中で私だけが居場所がないと思い、自分の中の何かがぷっつりと切れてしまったことを彼女は感じました。

 それから彼女は、家の中で物を壊したり、自分を傷つけるようになりました。
 リストカットや服薬など、自分を傷つける行為をはじめ、18歳で家を出た後は、複数の男性の家を転々とし、誰と生活しても心が満たされなかったようです。
 いつも孤独や不安を感じて、誰といてもむなしさがあり、

「いつか自分は捨てられる!」

 といったことまでを考えてしまうようになりました。

「自分の目」が曇るときは誰にでもある

 しかし、そんな彼女も「受容」というプロセスを通して、メンヘラっぽさと折り合いをつけるようになり、徐々に「安心感」を得ることができるようになったのです。
 彼女は「気づきを増やす」というプロセスで受容につながりました。
 こうして、家庭環境に恵まれなかった場合でも、成人後の考え方次第で、生まれ変わることができるのです。

 彼女の体験を通して伝えたいことは、メンヘラなときが続いてしまうのは、

「環境やトラウマが引き金となって自分を見る目が曇ってしまう」

 という当たり前の反応によるもので、誰しもに起こる可能性があるということです。

(本稿は、頭んなか「メンヘラなとき」があります。より一部を抜粋・編集したものです)

精神科医いっちー
本名:一林大基(いちばやし・たいき)
世界初のバーチャル精神科医として活動する精神科医。
1987年生まれ。昭和大学附属烏山病院精神科救急病棟にて勤務、論文を多数執筆する。SNSで情報発信をおこないながら「質問箱」にて1万件を超える質問に答え、総フォロワー数は6万人を超える。「少し病んでいるけれど誰にも相談できない」という悩みをメインに、特にSNSをよく利用する多感な時期の10~20代の若者への情報発信と支援をおこなうことで、多くの反響を得ている。「AERA」への取材に協力やNHKの番組出演などもある。