「お部屋を探しているんですけど」

 消え入りそうな声を振り絞ってみましたが、聞こえたのかどうかすら分かりません。ドアのところで立ちすくんでいると、ひとりの年配の男性が近づいてきました。

「お母さんがお部屋を探されているんですか?」

 そう言いながら、カウンターの席に誘導してくれました。

 真千子さんは、そこからのことをほとんど覚えていません。いろいろ質問され、真千子さんも自分の希望を伝えようとしましたが、頭に残っているのは「部屋は貸してもらえない」ということでした。理由も聞かされたのですが、頭には入ってきません。

 とにかく逃げるように、家に戻りました。

 家に着いて落ち着きを取り戻した頃、片付いた部屋を眺めながらこんな疎外感を味わうために断捨離をしてきたのかと、少し情けなく感じました。これが高齢者がひとりで生きるということの現実なのでしょうか。

 せっかく重い腰を上げて引っ越しに向かって作業もしてきましたが、このままこの戸建てに残るのか、それとも老人ホームに入所するしかないのか、自分でも分からなくなってしまっていたのです。

高齢者に賃貸物件を貸したくない、不動産会社側の理由

 真千子さんから事情を聞いて驚いた長男の誠さん(仮名・49歳)が、大学時代の友人で不動産会社を経営している中西さん(仮名・51歳)のことを思い出しました。

 すぐに連絡をとってみると、中西さんの口からは、高齢者の賃貸について驚くようなことばかりが飛び出してきました。それを要約すると……

1 70歳を超えるとほとんど部屋は貸してもらえない
2 家賃の価格帯によって差はなく、どの金額帯でも貸してもらえない
3 家主は高齢者に部屋を貸すより空室の方がまだマシだと思っている
4 家主は事故物件(孤独死)になってしまうことを怖れている
5 認知症になった時の対応に困る
6 建物を建て替える時に退去してもらえず困る
7 家賃を払ってもらえるのか心配

 中西さんがあげた理由が、ざっとこのようなものでした。