最主力薬「エンティビオ」の特許が切れる32年以降の持続的成長のため、新薬上市の効果が現れる時期から逆算してパイプラインを常に満たし、それでも足りない部分は外部リソースを臨機応変に導入する──。製薬企業を司るすべての者にとって要諦と言えるこの“開発カレンダー”を、武田薬品のクリストフ・ウェバー社長は就任10年目を数えるにもかかわらず、一向にうまく描けないようだ。
決算会見ごとに示す強気で楽観的な見通しも、程なく、現実との齟齬が出る傾向が最近、とみに顕著となっている。世は一般に、この状態を「オオカミ少年」と呼ぶ。「武田薬品の将来を考える会」をはじめとするカウンターパートの弱体化に安堵する暇もあえなく潰え、先行きには暗雲が立ち込めている。
10月26日に発表された武田の24年3月期第2四半期決算。そのなかで同社は、通期の業績予想について、売上高に当たる売上収益が前期比▲1.2%の3兆9800億円に、本業の儲けを示す営業利益が▲54.1%の2250億円に、当期純利益が▲70.7%の930億円にそれぞれ修正した。
すでに今年5月の通期見通しの発表時点で注意欠陥・多動性障害治療薬「ビバンセ」の米国特許切れと高血圧症治療薬「アジルバ」の国内独占販売期間の満了を理由に減収減益と予想していたので、結果的に、売上収益は23年3月期実績と比べて474億円の減収に。営業利益は2655億円のマイナスと半分以下に減り、当期純利益に至っては2240億円も目減りして3分の1の水準に縮む。散々な数字である。
今回の大失速の引き金は、足元における「エンティビオ」の伸び悩みに加えて、開発中だった肺がん治療薬「エクスキビティ」とクローン病に伴う複雑痔瘻治療薬「アロフィセル」の2剤がドロップしたことによる1000億円を超える減損の発生だ。オンラインで開いた説明会でウェバー社長は、「短期的な成長への復帰と、株主のための長期的な持続的価値実現の戦略に影響を与えるものではない」と強がってみせたが、液晶画面を通じて耳を傾けていた少なからぬステークホルダーらは、重要なメッセージも、通訳を介してしか発せないウェバー社長を冷ややかに見つめていた。株価も、そんな彼らの心中を表すかのように翌27日は前日比で8%も下落し、3990円の年初来安値を付けた。