偏差値35から東大合格を果たした、現役東大生の西岡壱誠さんの著書『「思考」が整う東大ノート。』が話題だ。2浪しながらも成績がなかなか上がらず、崖っぷちに立たされていた西岡さんは、頭がいい人の「ノートやメモの取り方」には共通点があり、それを真似することで、誰でも質のいいインプットやアウトプットができるようになると気がついたという。勉強法を見直し、ノートの使い方をガラッと変えた結果ぐんと成績が伸び、見事合格することができた。
この経験から西岡さんは、「東大生は、誰もがずば抜けた記憶力を持つわけではない。思考を整理するのがうまい人が多いのだ」と気がついた。その後、1000人以上の東大生のノートを分析し、その結果をまとめたのが『「思考」が整う東大ノート。』だ。本連載では、そんな本書から、仕事にも勉強にも役立つ、「見返さない」のに頭に入るノートの作り方を学ぶ。今回のテーマは、「丸暗記に頼らない記憶術」だ。(構成:川代紗生)

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東大合格者に共通する「ノート術」とは

「この勉強法じゃダメだ」

 あるとき、危機感を覚えた。毎日机にかじりついて勉強しているのに、成績が上がらない。偏差値35まで取ってしまった。このままでは、東大合格なんて夢のまた夢だ──。

『「思考」が整う東大ノート。』の著者・西岡壱誠さんは、浪人生時代、大きな壁にぶち当たったという。時間と労力をかけても結果につながらない、というジレンマだ。

 そんなとき、東大合格者たちがやっているという「ノート術」を知った。それが、本書で紹介されている「アウトプットノート」というやり方だ。

「アウトプットノート」は、「理解・定着」を目的とした勉強法だ。教科書や参考書の内容をただそのまま暗記するのではなく、自分なりに解釈し、理解するためのノートのことをいう。

「見返さない」のに頭に入るノートの秘訣

 この「アウトプットノート」の面白い点は、一つルールがあることだ。

 それは、「常に『言い換え』を心掛けて、コピーアンドペーストは禁止」ということ。

 要するに、「丸暗記」禁止なのだ。予備校の先生が黒板に書いた文字や、参考書に書いてある文言をそのままノートに書き写してはいけない。「自分なりの解釈」をふまえてノートを取る。

 一度、自分というトンネルの中をくぐらせてから、アウトプットしなければならないのだ。

 一見するとめんどくさく、「たくさん丸暗記をしたほうが効率がいいのでは」という疑問も浮かんだが、その具体的な方法を追っていくと、なるほどたしかにと膝を打った。

 本質的な理解とはこういうことなのか、私ももっと早くこの勉強法を知っていれば……と、思わずにいられなかった。

 西岡さんはこう語る。

情報は、そのままだとただの文字列です。そしてその情報をただ書き写すということは、まったく自分の頭を経由しない、意味のない行為になってしまうのです。コピーアンドペーストでは、情報は使えるようになりません。(P.170)

頭のいい人が「丸暗記」に頼らない理由

 たとえば、「must」という英単語がある。助動詞だ。あなたなら、この単語をどう訳すだろうか?

 ほとんどの人は、この単語を見た瞬間「~しなければならない」という日本語がぱっと浮かぶのではないだろうか。

「must work」なら「働かなければならない」
「must get up」なら「起きなければならない」

 などなど。

 ところが、このような「must=しなければならない」というストレートな覚え方をしてしまうと、応用が効かなくなるという。

 たとえば、“You must be hungry.”とは、「お腹が空いていなければならない」ではなく、「お腹が空いているに違いない」という意味になる。「~しなければならない」という訳だけでは、応用できない場面もあるのだ。

 丸暗記をしようとすると、「must:メインの意味は、『~しなければならない』。他にも、『~にちがいない』という意味もある」という覚え方をすることになる。

 しかし、これでは覚えることがどんどん増えていくだけだ。

 では、頭のいい人はどう覚えているのかというと、本書ではこう語られている。

根本的な意味さえ捉えていれば、訳語をいちいち覚える必要はありません。
×must=「しなければならない」
◯must=そうするのが当然である、ということを表す。
そこから派生して、「~しなければならない」、「~に違いない」と訳す。(P.172-173)

 つまり、「そうするのが当然だ・そうして当たり前だ」という英単語のニュアンスを自分の解釈で理解することが重要なのだ。

「理解・定着」のカギは「言い換え」にあり

 頭のいい人は、記憶が定着しやすい勉強法を知っている。ただそのまま丸暗記するのではなく、自分のフィルターを通し、咀嚼してからノートにアウトプットしているのだ。

 頭のいい人は、新しい知識を学んだとき、つねに「どう言い換えられるか」を考えているのだという。

何を隠そうこの「丸暗記」を避ける手段こそが、「サマリールール」、つまり「言い換える」という行為なのです。先ほどのmustの例であれば、「しなければならない」というのは、別の表現ではどんなふうに言い換えられるだろうか? と考えるのです。
「しなければならない、ってことは、そうするのが当然で、そうすることが義務だ、って意味だよな」と頭の中で言い換えてみるのです。(P.173-174)

 これは何も、受験勉強に限ったことではない。

 会社で研修を受けたとき、新しい本を読んだとき。何かを学んだら、「自分の言葉で言い換える」ことを習慣化しよう。

 ただ漫然と学び続けるのではなく、このノート術を活用すれば、知識の吸収率もぐんと上がるはずだ。

 ノートの書き方を変えれば、頭の中もすっきりと整理される。本書の技術を使ってノートを作ることで、自分の頭の中を可視化することもできる。

 思考を整えたいとき、ぜひ傍に置いておきたい1冊だ。