「SNSやチャットでたくさん文章を読んでいる」では語彙は増えない理由
小学生のレベルを超えた語彙のほとんどは、話し言葉でなく書き言葉の中に出てくるものである。読書をすることで、日常会話では使わない言葉を獲得していくことができるが、読書せずに日常会話やSNSのつぶやき程度のやり取りくらいの言葉にしか触れていなければ、中学校以降の勉強で使われる抽象的な言葉を獲得する機会がなくなり、語彙は小学生レベルから増えていかない。
文章を理解するには語彙力とともに読解力も求められるが、読解力に関しても、読書量が多い人ほど読解力が高いということが、多くの調査研究によって示されている。
心理学者の猪原敬介たちは、小学校1年生から6年生までの児童を対象に、読書量と語彙力・読解力の関係についての調査研究を行い、読書時間や読書冊数、学校の図書室からの図書貸出数などから測る読書量が多い子ほど、語彙力も読解力も高いことを見出している。
言語学者の澤崎宏一は、大学生を対象として、読書習慣と読解力の関係についての調査研究を行い、子どもの頃から現在までの総読書量が文章理解力と関係していることを明らかにしている。さらに、高校時代や大学時代の読書量より、小中学校時代の読書量の方が、大学生になったときの単文の読解力に強く関係していることを見出している。
ものを考える際には、頭の中を言葉が駆けめぐっている。このように言葉でものを考えるということ、そして本を読むことで語彙力や読解力が高まるということから言えるのは、読書することで思考力が高まるということである。思考は持っている言葉に制約を受ける。読書によって心の中に言葉を蓄積することが、知的発達につながっていくのである。
本を読めばいろいろな言葉に触れることができる。知らない言葉に出会うこともあるだろうが、そのときは文脈を手がかりにその言葉の意味を推測して読み進めていくことになる。このような読解作業は知的鍛錬になる。