このモビチェンを前例として、今後複数の車両区分を切り替えられるモビリティ(警察庁は「状態が変化するモビリティ」と呼んでいる)が出てくる可能性が開けた。例えば乗る人によって、最高時速6キロメートルで歩道走行可能なシニアカーにも、最高時速30キロメートルの原付にもなる乗りものも実現可能だ。

「歩行領域」のモビリティにも新たな動き

10月には、トヨタが歩行領域の立ち乗りモビリティ「C+walk」を発売した。最高速度は時速2-10キロメートル の範囲で切り替えることができ、歩道走行を前提としている。筆者は2019年の東京モーターショーでプロトタイプに試乗したが、歩行者に目線が近く、三輪で低速でも安定しているため、家族や友人などと並んで歩く感覚で移動できるモビリティだった。

トヨタの立ち乗りモビリティ「C+walk」 トヨタのプレスリリースより
トヨタの立ち乗りモビリティ「C+walk」 トヨタのプレスリリースより

現時点では公道走行はできないが、トヨタは発表の中で「関連法規の改正動向も踏まえつつ、将来的には公道での使用も見据え」と言及している。シニアカーのような座り乗りタイプや、車いすに連結するタイプも開発中だ。

同じ歩行領域では、電動車いすを手がけるWHILLの動きも目立った。6月に羽田空港で自動運行サービスの全面運用を開始。保安検査場近くのステーションで電動車いすに乗り込むと、指定した登場ゲートまで自動運転で運んでくれる。利用者が降りると、無人の電動車いすは自動で元のステーションまで戻るというものだ。

11月には新モデル「Model F」を発売。折りたたみ式とすることで軽量コンパクトな機体を実現。価格も従来の半額近くとなり、安価な日額レンタルも用意されたことで手軽に利用しやすくなった。歩行が困難な方が使う「電動車いす」から行動範囲を広げる「パーソナルモビリティ」へと、利用シーンの拡大を狙う。

WHILLの新モデル「Model F」 WHILLのプレスリリースより
WHILLの新モデル「Model F」 WHILLのプレスリリースより

7月に1年遅れで開催された東京オリンピック・パラリンピックでは、トヨタの自動運転バス「e-Palette」が運行され、多くの選手やスタッフを運んだ。そんな中、視覚障害のある歩行者と接触する事故が起きてしまい、改めてモビリティ分野で新技術を開発することの難しさ、責任の重さを感じた。

トヨタの自動運転バス「e-Palette」 トヨタのプレスリリースより
トヨタの自動運転バス「e-Palette」 トヨタのプレスリリースより

「最高時速50キロ」の自転車も登場

個人的に気になったニュースも紹介したい。BIRDは10月、高精度測位サービスを展開するスイスのu-bloxと共同でセンチメートル級の精度を持つ歩道検知技術を発表した。人工衛星を利用した位置情報(GNSS)や車載センサー、高精度マップを組み合わせて実現したもので、BIRDの電動キックボードで歩道に入ると警告が届くとともに、走行できなくなるしくみだ。すでに米国の一部でテスト中で、2022年には広く展開する計画だという。