ユニークなのがその組織構造だ。同社は各国で事業を展開するにあたって現地のマイクロファイナンス機関に資本参加(過半数の株式を取得することが多い)したり、彼らと連携して新会社を設立したりしながら、現地の事情に精通したパートナーと事業を手がけている。

通常この領域ではローカルの信用金庫のような企業やNGO、ローカルの大企業、IT系の新興企業などいくつかのプレーヤーが存在するが、慎氏の話ではこれまで各事業者が交わることが少なかった。

現地でうまくいっているマイクロファイナンスの事業者は現場の営業社員の活躍によって支えられているところが多く、地元とのつながりが大きな強み。その反面、海外展開や新しい革新的なサービスを作り上げるノウハウなどを持ち合わせているわけではなく、テクノロジーの実装も課題の1つだ。一方で少数精鋭のIT系スタートアップが、接点の少ない地域でゼロから事業を立ち上げるのは簡単なことではない。

五常の場合は持株会社の従業員の約半数がIT系企業の出身で、そのほかにも金融機関やプロフェッショナルファームから参画してきたメンバーなどが集まる。同社では各地域に詳しい現地の金融機関の株式を保有することで強固な関係性を築き、彼らにない知見や技術を注入することによって急ピッチで事業を広げてきたわけだ。

たとえば「テクノロジーの活用」は五常の事業には欠かせない。マイクロファイナンスの主な顧客が中高年層かつスマホを持たない人たちになるエリアでは、従業員や代理店の融資業務をサポートするアプリを開発。指紋決済を用いた仕組みなどを通じて、現金や手書きの通帳によるやりとりなしで融資ができる体制を整えた。

また識字率が高いエリアではエンドユーザー向けにスマホを用いたウォレット・決済アプリも展開。タジキスタンでは同社のアプリが国内でトップクラスのシェアを誇るそうだ。

「マイクロファイナンスのサービスはすごく小さな金額の融資をface to faceでやっているため、人件費が1番大きなコストです。テクノロジーの実装や経営の強化が進めば生産性が上がるため、この人件費率が改善される。そうすると全体のコストが下がるので金利を下げることができますし、より小さい金額の融資をすることもできます。つまりイノベーションを起こせば起こすほど、より所得の低い人向けであっても、採算が合うサービスを提供できるようになるんです」(慎氏)