スマートフォンが好きで、スマホ向けのユーザー参加型サービス開発に携わっていた井上氏は当時、「スマホの次に来るデバイスは何か」と考え続けていた。そこで出合ったのが、日本でも提供が始まったばかりのAmazon EchoやGoogle Nestといったスマートスピーカーだ。

井上氏は「スマートスピーカーの登場により、今までのスマホでは『手で書いて、目で読んで』いたものが、『口でしゃべって、耳で聞く』と、人間の別の五感を使うようになる。テキストで行われていたコミュニケーションやコンテンツの市場が(音を中心に)リプレースできるのではないか」と考えた。この領域の市場性の大きさを想像して「波が来た」と感じたのだ。

そこには、井上氏自身が熱心なラジオリスナーであり、ポッドキャストの愛聴者だったことも影響している。

「ストレス指数が高い満員電車の中でも、面白い話を聞きながら乗っていれば、すごく楽しい時間に変わります。私は芸能人の方のラジオだけでなく、沖縄の琉球放送の番組や和歌山のコミュニティラジオ・Banana FMの番組など、知らないエリアの知らない人の話を聞くのが好きで……。喫茶店で隣の人の話がちょっと聞こえてきて、それがとても面白かったというようなこともありますよね。何かしらの『エンタメ』と呼べるものが、そこにはあると実感していたんです」(井上氏)

その頃はまだ、市井の人の音声コンテンツがエンタメになると着目する人は、ほとんどいなかった。だが、大学でラジオ制作について学んだこともあって、井上氏は「今までラジオという市場にしか当てはめられなかった音声コンテンツも、飲み会の話や喫茶店の話、ちょっとしたおしゃべりも全部ひっくるめた『話』というものの市場として、今ならもっと形を変えて再構築できる」と考えた。

こうして、誰もがテキストを発表できるブログと同様、誰もが「話」を発信できるサービスとして誕生したのが、Radiotalkだった。2019年3月には、スタートアップスタジオを運営するXTechの子会社としてRadiotalkを設立。井上氏はその代表取締役として、サービス開発をさらに進めることになった。

力あるコンテンツの配信者が収益面で報われる仕組み

Radiotalkには、「トーカー」と呼ばれる配信者がリスナーから「ギフト」を受け取れる、投げ銭システムがある。

井上氏がRadiotalkを「稼げるプラットフォーム」にしようと取り組む理由は、ラジオ番組やポッドキャスト番組の継続の難しさにある。