このタイミングでの団体設立の背景にあるのは、6月にあった経産省のグレーゾーン解消制度での見解だ。グレーゾーン解消制度とは、新事業をはじめたい企業などが、その事業が現行の規制の適用を受けるかどうかあらかじめ確認できる制度のこと。新産業領域に取り組むスタートアップにとってもなじみ深い制度だ。

6月に出された見解というのは、匿名の企業(編集注:グレーゾーン解消制度は基本的に照会企業を明示しない)がAI契約書レビュー事業への参入を検討するために照会を実施。その結果「違法の可能性がある」という見解が出されたというものだ。弁護士法72条では弁護士以外が法律事務を扱うことを禁じる、いわゆる「非弁」に言及しているが、そこへ抵触する懸念があるという判断だった。

松尾氏は会見において、6月にあった照会が、あくまで協会メンバーとは無関係の別個のサービスに関する評価であることや、グレーゾーン解消制度での見解が誤解を招く内容だったのではないかと指摘。照会は「弁護士のようなレビューをしたら、弁護士法の問題になりますか」と問い合わせたようなものではないかと説く。また現行のAI契約書レビューサービスは、法的な意味に基づいて照合をする「鑑定」にまではなっておらず、法律業務ではないとしている。

グレーゾーン解消制度の利用方法、いぶかしげる声も

また本件をスタートアップの観点で見たとき、注目すべきは「グレーゾーン解消制度」がどういう制度であるかという点だろう。グレーゾーン解消制度は多くのケースにおいて、その事業を行うために「適法である」という“お墨付き”をもらうために照会することがほとんどだ。また、正式な照会の前に担当者レベルで事前回答が伝えられるため、「新事業が適法ではない」という見解が出る前に照会自体を取り下げる企業も少なくない。

そのためスタートアップに詳しい匿名の弁護士からは、「(AI契約書レビューサービスを)あえて『違法である』という見解を求めて照会したのではないか」といぶかしげる声もあがる。もちろん、直近でもグレーゾーン解消制度で「違法」と判断されたケースは複数ある。例えば2021年8月には、「民泊のサブスクリプションサービス」の適法性を照会した企業に対して、厚生労働省が「旅館業法に抵触する事業になり得る」とした回答を出している。

なお、今回ACORTAを立ち上げたスタートアップ4社以外では、法律ポータルサイトや電子契約サービスを手がける弁護士ドットコムがAI契約書レビュー事業への参入を表明している。日本経済新聞が報じたところによると、9月にはグレーゾーン解消制度の照会も実施済みだという。ACORTAでも設立時に弁護士ドットコムにも参加を呼びかけたとのことだったが、現時点で同社は参加していない。