個人的に、これを原状回復バイアスと勝手に呼んでいるのですが、我々が世界を変えようと行動を起こした時に必ず立ちはだかるこの壁の存在を改めて見せつけられた1年だったなと思います。

副業・兼業にビジネスチャンス、エンタメ市場にも期待

2021年は、おそらくワクチンが段階的に提供されていき、全体感としてはコロナとの闘いを継続しつつも、2020年とはまた違ったさらに新しい日常を模索するようなトレンドが予想されます。前述のとおり、本質的に人が変わりにくいものだとすると、コロナ前への原状回復バイアスのようなものが支配的になっていく可能性もあり、非常に潮目の読みにくい1年になりそうです。

そんななか、ボトルネックとなる課題に着眼し、その解決を通じてよりよい社会を作るのがスタートアップの使命であり、それを精いっぱい支援していくというスタンスはもちろん不変なのですが、よりレバレッジの効きそうな領域・社会課題に着目した投資活動を行っていきたいと考えております。

具体的には、コロナ前からじわじわと人々の当事者意識の高まりが見られてきた「働き方」に関する領域、特に副業・兼業といった文脈でのビジネスチャンスは広がりを見せるのではないかと思っています。HRTech隆盛の中でも市場規模の小ささからか、あまり目立ったプレーヤーの活躍が見られなかったこの領域ですが、リモートワークの広がりも相まって、例えば首都圏の副業人材が地方で活躍するような市場が勃興する気配が感じられます。

また、これはやや逆説的ではありますが、2020年に消失してしまったエンターテイメント市場の動きにも目が離せないと思っています。インバウンド需要を筆頭に、2020年は移動を伴う余暇の過ごし方の選択肢がほとんどなくなった1年でしたが、裏を返すとこれから先は市場の回復しかない。プラス方向のエネルギーを目一杯ため込んだ状態ともいえると思います。直近では、GoToキャンペーンなど短期的な対策に市場全体が振り回されている印象ですが、少しずつ移動や人との接触が可能になっていくなか、体験価値を極大化するような、本質的な課題解決アプローチについて改めて考えてみたいと思っています。VR/ARなど期待されつつ日の目を浴びていない、技術としては成熟期に達しているようなテクノロジーの活用などに期待したいです。

それから、少し話は戻りますが、中小零細企業や教育現場など、コロナ禍で2020年に現場が大きく混乱していながらも、本質的な課題解決、いわゆるDXが実現していない領域もたくさん残っていると思います。これから少しずつコロナ前の日常を取り戻していくなか、彼らのようなプレーヤーが変化していくことができるのか、ここはまさに原状回復バイアスとの闘いの様相を呈しております。いかに現場にソリューションを落とし込むことができるか、たくさんの起業家の方々と議論させていただきたい課題です。