顧客は誰だったのか──選択と集中によるプロダクトの磨き込み

プロダクトについては、いわゆる「選択と集中」により、フォーカスするユーザーを絞って磨き込むこととなった。

「広告費をガンガン使ってスケールする、ということができなくなり、売り上げは横ばい状態。しかし、定着しているお客さんがずっと必ずいて、そのお客さんがすごくいいコメントをくれたりする。だから、そこには多かれ少なかれマーケットがあるという確信はありました。そこで『誰が我々のサービスを評価してくれているのか、ユーザーは誰なのか』をしっかりと見極めて、それに寄り添ったサービスにしていけば絶対に生き残れると考えたのです」(宮崎氏)

BeatFit代表取締役の宮崎学氏
BeatFit代表取締役の宮崎学氏 写真提供:BeatFit

BeatFitのサービスやコンテンツは当初、パーソナルトレーニングやボディーメイク、筋トレといったハードなトレーニングを意識したものだった。しかし日本では、こうしたトレーニングのマーケットは米国などに比べると非常に小さい。フィットネスアプリの利用シーンも散歩やストレッチなどの軽い体操が主で、ユーザーは「体を動かす」ことに主眼を置いている。

また、ボディービルダーのような人たちが求めるサービスは、オンラインフィットネスとの相性が悪かった。

「ベンチプレスなどの器具を使ってRIZAPが展開するようなビジネスを、オープン、デジタルのサービスへ置き換えようとしてもなかなか難しい。それに、高単価で短期の効果に課金するというビジネスと、スマートフォンアプリに長期で課金してもらい利益を出していくというのでは、ビジネスモデルも違います。実際、残ってくださっているユーザーは最初の設定とは全く違いました。小学生ぐらいのお子さんがいるような40〜50代ぐらいまでの働く女性で、初心者の方が中心だったんです」(宮崎氏)

アプリはiOS版、Android版ともに、月額1480円(税込)のサブスクリプション型。個人向けのアプリとしては比較的高い単価だが、肩こり・腰痛の予防や、毎日少しずつ運動することで健康を維持する目的で、サプリメントを飲むような感覚で利用を続けるユーザーが多かった。

また、ユーザーからはBeatFitが定期的に開催する、目標達成のためのイベントなどにより、「1人で、自宅で気軽にできるけれど、独りぼっちではない」という点も好評を得ていた。

「BeatFitには、初回1カ月の無料期間があるのですが、その中でガンガン使うような人には解約してしまう人も多いのです。こうして見ると『カーブス』(女性専用の健康体操教室を展開するフィットネスクラブ。高齢層の利用が多い)の価値をデジタル化して、彼らのターゲットより10〜20歳ほど若い人にスマートフォンで提供しているのが、BeatFitだったんだと分かりました。モチベーションをつくることは大事ですが、(強いモチベーションというよりは)習慣として、生活に埋め込まれるようなものの方が適していたのです」(宮崎氏)