「ケイデンス経営」が組織のカオス状態を整える

四半期ごとに目標設定をする多くの企業にとって難しいのが、セールス、ファイナンス、プロダクト、マーケティングの4事業部による連携だ。分業体制になりやすく、事業部ごとの連携が課題になることの多いSaaS型スタートアップも例外ではない。

事業部間で連携が取れていないとき、言い換えると、各事業部の目標が他事業部の目標にどのような影響を与えるのかがクリアになっていないときには、それぞれが他事業部を意識することなく、各々の数値目標だけを追いかけて進んでいくことになる。

目標達成の過程で、各事業部が各自のステークホルダーのニーズを満たそうとすると、例えばある事業部は投資家を優先し、別の事業部は新規顧客を優先し、その結果、既存顧客のケアが足りなくなってしまう──といった事態になることもあり得る。一組織として統一感のないこのような動きは、組織にカオスな状態をもたらすことになりかねない。

組織の規模が少しずつ大きくなり、組織全体で見たときに、各事業部が整合性の取れない動きをするようになる前に取り入れたい手法が「ケイデンス経営」だ。

ケイデンス(cadence)には「声の調子」や「歩調」「回転数」の意味がある。事業部間の連携を強くすることを「歯車」にたとえ、その歯車を高速で回転させていく経営の仕組み作りがケイデンス経営である。

米国のベンチャーキャピタルCraft Ventures創業者のデイヴィッド・O・サックス氏が、自身がCOOを務めたPayPal、創業者でCEOを務めたYammerで取り入れてきた経営哲学としても知られている。

PayPal、Yammerが取り入れてきたケイデンス経営の基本

ケイデンス経営では、セールス、ファイナンス、プロダクト、マーケティングの4事業部を「セールス/ファイナンス」「プロダクト/マーケティング」の2つに分け、それぞれが同じカレンダーで動くようにする。

プロダクトの開発の遅れや、その発表タイミングの不確実性は、それにひもづくマーケティング施策のスケジュールや目標設定にも影響を及ぼす。また、セールスもファイナンスの事業の成長目標から逆算した売上を達成する必要があり、ここの足並みを揃えて連携することで、全員が何に取り組むべきなのかを理解することができる。

ケイデンス経営の基本
 

ケイデンス経営のキモは、プロダクトとマーケティングの動きを連動させ、四半期ごとなど、定期的に新製品・新機能を市場に発表するPRイベントを行うことにある。任天堂の「Nintendo Direct」や、Appleの新製品発表イベントなどもこれにあたる。ケイデンスという言葉には「リズム」や「韻律」の意味もあり、イベントの実施は各事業部が足並みを揃えて連携するリズムを作る。