メタバースで数百万人の新しい雇用を生み出す

一方で、興味深かったのが、メタバースを生み出すことで雇用を作り出すということを強調していた点だ。

「私たちの希望はみなさんと取り組むことで、今後10年以内にメタバース人口が10億人に達し、そのデジタルコマースが数千億ドル規模となり、数百万人のクリエイターや開発者の雇用を支えることです」(ザッカーバーグ氏)

VRやARの使用者を10億人にまで到達させるというのはザッカーバーグ氏が長期ビジョンとして、すでに過去に何度か述べていたことだったが、「メタバース人口」という形で再定義された。そして、その実現のためにオープンなプラットフォームを開発し、クリエイターや開発者の参加と協力を呼びかけた。

メタバースの真価は「雇用創出」か──Facebook、Metaへの社名変更の意図を読み解く
 

そのため、特定の製品であるFacebookでは収まりがつかなくなってきたブランドをメタバース中心へと変更するための「Meta」への名称変更であるという説明になっていた。

基調講演を通して聞いた感想は、ザッカーバーグ氏の講演は、もはや単なる巨大IT企業のCEOという枠を超え、政治家の所信表明演説のように感じられた。いち企業の発信情報としては、なかなか聞けないメッセージのように感じられた。

今後、重要になってくるのはMetaのプラットフォームにどれだけの企業が参加するのか。そして、多数のユーザーが魅力を感じて利用し始め、本当に経済圏が生まれるかどうかだろう。

Quest 2に向けた技術開発によってVR分野では他社に比べて大幅な優位性を築いているものの、他の巨大IT企業との競争が激しくなっていることは間違いない。

ただ、巨大IT企業だったFaceBookが社名をMetaに変えてまで、メタバースに突き進むという姿勢は、次の世代のコミュニケーションツールを誰が生み出すかという競争に大きな影響をもたらすことだろう。

そして、リアルとバーチャルの区別などもはや意味がなく、むしろ、リアルとバーチャルの経済圏が区別できないほどの混合が始まる段階に入りつつあることをMetaの発表からは意識させられた。数年後振り返ったときに、1つの時代の分水嶺となった講演として位置づけられることは間違いないだろう。