あくびをする男性写真はイメージです Photo:PIXTA

健康な生活のためには「早寝早起き」が基本とよく言われるが、遺伝や年齢によって体内時計のリズムは差がある。体のためには、自分にあったリズムで生活することが重要だ。免疫力や寿命にも深く関係する体内時計の整え方とは。本稿は、河合香織『老化は治療できるか』(文春新書)の一部を抜粋・編集したものです。

「早寝早起き」が
必ずしも正解ではない

 村上春樹ファンの「ハルキスト」でなくとも、村上春樹氏が早寝早起きで規則正しい健康的な生活を送っていることはよく知られている。

「早寝早起きの健康的な生活を送り、日々のジョギングを欠かさず、野菜サラダを作るのが好きで、書斎にこもって毎日決まった時刻に仕事をするような作家」(村上春樹『職業としての小説家』より)

 これを読んで、「早寝早起き」はやはり重要だと筆者は思ったが、「それは素人の考えですね」と京都府立医科大学で「時計遺伝子」の研究を行う八木田和弘副学長は言う。

「プロはこれを読むと、体内時計が整っているんだなと思います。体内時計は村上氏が言うように『今ある状態を最善のものに保つ強さ』につながります。しかし、早寝早起きが必ずしもいいわけではありません。その人に合った正しい生活リズムで生活することが極めて重要なのです」

 早寝早起きはいいと昔から繰り返し伝えられてきたが、八木田副学長は「それは夜行性の動物を軽んじていませんか」と言う。そこには体内時計の個人差「クロノタイプ」が存在するのだという。

「朝型」や「夜型」という言葉はよく耳にするが、それは単なる生活習慣ではなく、遺伝的要因によってある程度決まっているそうだ。

遺伝的に人によって生まれつき『朝型』と『夜型』があります。その差は最大2.5時間ほどです

 さらに、遺伝的要素だけではなく、年齢によっても朝型と夜型は変化する。子どもは朝型だが、思春期から20代で夜型になり、睡眠中央値が平均で2時間遅れる。そこから歳を重ねるごとに、どんどんと朝型になっていく。これは社会的・心理的要因ではなく、生物学的要因によるものだという。年齢によって必要な睡眠時間も異なってくる。

「だから、医学部の学生が一限の授業に遅刻しても、私は怒ることができなくて困っています。もしかしたら、この子は夜型のクロノタイプかもしれないと考えるからです」

 米国では「Start School Later」(始業時間を遅くする)運動を行い、学業成績の向上という成功を収めた。

「夜型の子を無理に早起きさせると、体内時計のリズムを狂わせて老化を加速させてしまうかもしれない。一方で朝型の子もいる。理想的には学校も会社のようにフレックスタイム制を導入するといいかもしれません」

 この体内時計は、じつは老化と非常に密接に関わっている。八木田副学長は、「体内時計を制御することで老化をコントロール出来るのではないか」と語る。