消費税もスピーディーに廃止される国

 マレーシアの社会は、一見不便そうに思えるかもしれません。しかし、意外にも人によっては快適に生活できてしまいます。

 銀行や役所から書類が郵送されてくることはめったになく、FAXはほぼ死滅。だいたいの用事はオンラインで完結し、銀行のATMは365日24時間利用できます。快適な生活に欠かせないのは、マレーシア発の企業Grab(グラブ)のアプリ。いまやGrabは東南アジアでの生活に欠かせないサービス。配車サービスはあっというまに広まり、タクシーにかわる足となりました。Grabは配車だけでなく、スーパーの買い物からレストランのデリバリーまで対応し、ブロッコリーひとつでも三十分もあれば配送してもらえます。

 便利でスピーディーなのはこれだけではありません。

 2018年の選挙の争点のひとつは、「消費税の廃止」でした。

「消費税を廃止することなんて、本当に可能なのだろうか」と思っていたら、マハティール元首相が政権復帰し、1カ月も経たないうちに消費税が0%になりました。それでも国民が戸惑ったり、パニックになったりという事態にはなりませんでした。

 そしてパンデミックが始まった2020年。

 最初のロックダウンからほどなくして4月には、マレーシア政府は、感染者追跡アプリ「My Sejahtera」(マイセジャテラ)を開発しました。しかもこのアプリには、その後もワクチン接種証明、自主検査キットの購入、自分の身近(半径一キロ以内)に患者がいるかいないか、接触情報、ワクチン接種の申し込み・ワクチン証明のPDF印刷というふうにどんどん機能が追加され、かなり便利になりました。

 さらに驚いたのがワクチン接種のスピードです。

 マレーシア政府は2021年7月、年末までに全成人への新型コロナワクチン接種完了を目指すと宣言しました。そして2カ月後の9月24日には、人口の82.5%がワクチン接種を完了させたのです。政府のこのスピードについていくのはさすがに国民側も大変でした。

 私の場合、2回目の接種は「今日の午後二時に所定の場所に来るように」という連絡が当日の朝、「My Sejahtera」を通じて来ました。私は普段からスマホを見る習慣がなく、そのメッセージをうっかり見落としてしまいました。

「こんなに急だとついていけないですよ」

 Grabのシェアライドのドライバーさんに愚痴ると、

「政府のスピードを甘く見てはいけないよ。みんな三時間ごとにMy Sejahteraをチェックしているよ。朝チェック、昼にチェック、3時にまたチェック! マレーシアではこれ常識。もうみんなワクチン接種は終わっているから、ワクチンセンターはどんどん閉鎖されているよ」

「そ、そっか……そうだったのか」

 となりました。この国ではスマホを持たずにいると世の中からどんどん置いていかれます。先ほどの感染管理アプリはその一つで、アプリをスマホに入れていないと建物の中に入りにくく、どこに行くにも不便だった時期がありました。

 コロナ対策だけでなく、たとえば公営駐車場のチケット券売機を次々と撤廃し、アプリで支払う方式に変えてしまうなど、政府主導でさまざまな対策が取られています。

 交通違反の罰金もアプリで払うようになり、「この国のスピードを舐めてはいけない」とマレーシア人に言われたことがありました。そういう意味では、日本は、インターネットやパソコン、スマホなどのITを普段からあまり使っていないような高齢者にはとても優しい社会だと言えるのです。