減酒を始めるためには、まずあなたの飲酒状況を客観的に把握する必要があります。「飲酒による損益収支表」を参考に表を作ってみましょう。本来、人はこのような収支に基づいて飲酒をしています。しかし習慣的に飲むうちに、多くの人が収支を意識しなくなり、「何も考えずに惰性で飲む」という状況になりがちです。

飲酒による損益収支表本書16ページより 拡大画像表示

酒を減らしたら楽しいことが
なくなってしまうと思い込む

 お酒は強力な依存性薬物なので、他のことよりも最優先になる性質を持っています。

 図「アルコール依存の進行」を見てください。図の上のように、本来、人間にとって重要なのは、家族と暮らす幸せ、健康の喜び、仕事の生きがい、趣味の楽しみなどでしょう。お酒は、人生の主役ではなく、脇役に過ぎません。家族や仕事や趣味がメイン料理や主食だとしたら、お酒は、そこに彩りを与えるスパイスのような存在です。

アルコール依存の進行本書17ページより 拡大画像表示

 しかし習慣的に飲酒をしているうちにその優先度が増し、いつしか家族や仕事や趣味は隅へと追いやられてしまいます。お酒によってマインドコントロールされている脳は、それに気づきません。論理的に考えているように見えて、実はお酒中心の歪んだ思考になっていきます。

 アルコール依存が進行するにつれ、「飲酒による損益収支表」は、図「依存が進んだ場合の損益収支表」のように見えてきます。次第に「飲酒による利益」や「断酒/減酒による損害」しか見えなくなるのです。「お酒をやめるなんて、できるわけがない」「お酒を減らしたら楽しいことが何もなくなってしまう」などと考えるようになり、無意識にお酒にしがみつくようになります。

依存が進んだ場合の損益収支表本書19ページより 拡大画像表示

 逆に、「飲酒による損害」は見えません。健康への害、家族の心労、仕事への影響は大きくなるものの、依存が進行するにつれ、「大した問題ではない」と思うようになります。「減酒/断酒による利益」についても同様です。世の中にはお酒以外の楽しいことがたくさんあるはずなのに、お酒漬けの脳には想像がつきません。アルコールの作用により、知らぬ間に人生の価値観が歪んでいるのです。

 このように考えると、正確で客観的な「飲酒による損益収支表」を書くことこそ、減酒を続ける基礎になります。最初はうまく書けないかもしれませんが、それでもよいのです。減酒を続けるうちに、今までは考えもしなかった「飲酒による損害」「減酒/断酒による利益」の空欄が、次第に埋まっていくはずです。