「断酒」ではなく
「減酒」という選択肢

 そこで、提案したいのが「減酒」です。近年、アルコール医療の世界で注目されている方法です。

 減酒という考え方は、1970年代からヨーロッパで始まりました。研究が進むにつれて、アルコール依存症に至っていないハイリスク飲酒者や依存症予備軍、プレ・アルコール依存症の人に対して、短期的なお酒の教育を行ったところ、飲酒による問題が改善したという報告が続きました。WHOは2013年に日本を含む加盟各国に対して、「アルコールの有害な使用を可能な限り減らしていこう」という勧告を出しています。

 これらを受けて、日本でも産業保健や地域保健などの分野で、減酒の方法を教える「減酒指導・減酒支援」という考え方が、少しずつ広がりを見せています。いわば予防医学の視点です。

 2010年代に入ってからは、「アルコール依存症の人に対しても、減酒を使えば一定の効果がある」という考え方に発展しました。もちろん、断酒が最も安全な治療法であることは明らかです。しかし、どうしても断酒は嫌だという人もいるでしょう。断酒することを拒絶するあまり、自分のお酒の問題から目を背ける人もいます。

 従来の日本では、アルコール依存症の専門医療機関を受診すると、ほぼ100%、断酒を指示されていました。そのため受診を渋る人が多く、治療のハードルは限りなく高いものだったのです。そんな中、2017年に国立病院機構久里浜医療センターで、日本初の「減酒外来」が開設され、各地の医療機関に広がりつつあります。

 減酒外来がどこまで有効であるのか臨床研究は始まったばかりですが、「減酒治療でアルコール問題の重症度が改善された」「アルコール依存症への進行をある程度予防できた」。このような報告がいくつか認められるようになっています。

 本記事における減酒の考え方も、基本的には予防医学および進行防止の視点に基づいています。「依存症には至っていないけれど、将来的に依存症に進行するリスクのある人たち」が、この記事を読んで「健康を害さない適切な飲酒」を実践してほしいと考えています。