「見た目を動物に似せると、その動物らしいふるまいの再現が求められます。しかし、少しでも違和感のある動きをすれば、私たち人間の目は『気持ち悪い』と感じてしまう。そのため、正確に再現しようとすれば開発コストが跳ね上がります。僕らは、ペット型ロボットではなく“愛することができる”技術そのものを提供したかった。動物に似せるためにコストをかけるなら、いっそ新たな生き物をつくるようにLOVOTを開発しようと思ったんです」(林氏)
猫を抱いているような温度と柔らかさ
“愛されること”を目的にした家族型ロボットだからこそ、愛情を感じられる要素は不可欠だ。LOVOTの開発において、特に意識されたのが「距離感」「振る舞い」「人肌」の3つである。
「人間や動物は安心する相手に近づき、不安なものから遠のく動きがあります。しかし、これまでの家庭用ロボットには自ら動き回るものがなく、近づく・遠のく機能もありませんでした。LOVOTには、音や動きに反応し、心を許した相手に対して自らが近づき、懐いたと感じる動きを取り入れています」(林氏)
さらに、LOVOTごとに設定された「性格」によって、異なる動きをする。そのため、LOVOTによっては抱っこをねだる仕草を多く見せるものもあるし、人見知りで懐くのに時間がかかるものもある。
抱き上げたときにLOVOTから感じられる「温かさ」も特徴の1つだ。「猫と同じ体温を意識した」と林氏は語る。
「触れたときに『温かい』と感じられることも、スキンシップにおいて大事なポイントです。LOVOTの体温は、猫と同じ約37度。温かくて柔らかい、抱きしめたくなるものを目指した結果でした」(林氏)
また、ユーザーにとって、“自分だけのLOVOT”になるよう、専用アプリから目や声のカスタマイズを可能にした。ランダムで選ばれた初期設定での目や声を運命として、そのまま使用するユーザーもいるという。
「見た目も“自分だけのLOVOT”にしたかったんです。しかし、ロボットである以上、工場生産しなければならない。ならば、目と声はカスタマイズできるようにしようと、それぞれ10億種類以上から選べるようにしました。これだけあれば、他の人とかぶらないでしょう?」(林氏)
職種の垣根をあえてなくし、アジャイル開発に徹底
「新たな生き物をつくるように、LOVOTを開発した」と語る林氏だが、開発時にかなり試行錯誤したのが組織体制だった。特に難しかったのが「イメージの共有」だと語る。
「私の頭の中にLOVOTのイメージができあがっていても、開発チーム全員が共通のイメージを持っていなければ、形にしていく中でずれてしまいます。そこで、細かく試しながら進めるアジャイル開発を行い、イメージをすり合わせていきました」(林氏)