ビジネス本のメソッドに踊らされずに、素直に数字を見て絶えず現状を把握してほしいと語る須田氏。「金融関係者の方から、『(赤字経営を続ける)ベンチャー経営者ってバカなの?』と言われたこともありますよ」と辛辣な言葉も飛び出す。

数字を伸ばす方法はユーザーからしか学べない

 ただ口当たりの良い経営手法に踊らされずに数字をきちんと見ながら、メンバーとの信頼関係を築く。須田氏はさらに、経営者はユーザーを注視すべきだと続ける。

「先ほどの話と矛盾するようですが、数字ばかりを気にするベンチャーも多いんです。経営会議で『先週比で売り上げが何パーセント増加している』といったデータは細かく上げてくれるのに、『じゃあどんなお客さんに人気なの?』と質問すると途端に黙ってしまう。数字を伸ばす方法は、生きたデータであるユーザーからしか学べません」

 プロダクトのターゲットとなるユーザーの声や、競合他社をしっかり調べる。経営の基本ではあるが、徹底するのは簡単ではない。

「gumiの國光さん(gumi代表取締役会長の國光宏尚氏)は、週末カフェにこもってひたすらゲームをプレイしている様子をSNSで公開していたし、マイネットの上原さん(マイネット代表取締役社長の上原仁氏)も一緒に移動している際、ひたすら自社のゲームをプレイしていました。自分が挑戦する領域なのだから、それくらいどっぷり市場に浸からないと勝負できないですよね」

ビジネス本の言葉を鵜呑みにしてはいけない

 ここまでヒト・モノ・カネについてよくある失敗と対策を紹介してもらった。では、逆に成功する企業に共通する要素は何なのか? そう須田氏に尋ねると、「うーん」とひと呼吸分だけ悩んだ後、こう答えた。

「『成功する企業は○○をしている』と定義づけることこそが、ベンチャーにとってのミスリードになっている気がするんです。ビジネス本の言葉を鵜呑みにするせいで、経営上の違和感にも気づけなくなっている」

「僕のアドバイスはある意味当たり前の指摘ばかりかもしれません。ですが、当たり前のことこそこなすのが難しい。経営の当事者だと、どうしても主観的な視点が混ざってしまうので。一歩引いた場所から『まあまあ』と客観的なツッコミを入れるのが、外部取締役である僕の役目ですね」

不足しているのは、経営者よりも「ナンバー2」

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 最後に、須田氏がベンチャー社員として働いていた頃と、いまのベンチャーの違いについて訪ねてみた。

「泥臭く働く会社は減りましたね。ベンチャーでもきちんと法令や規則を守る会社が増えています。僕がソフトバンクに勤めていた頃は、不眠不休で働き、24時間ずっとYahoo! BBのことしか考えていなかった。これにはもちろん良い面も悪い面もありますが、いまのルール通りの戦い方で成功できるベンチャーはひと握り。厳しい環境だと思います」