連載1回目、2回目では、病院再編・統合、医師不足など、様々な課題を抱かえる日本の医療界について解説してきました。
地域医療構想の推進や医療費の削減効果などメリットが多い病院の再編・統合の動きは今後、より加速すると見られています。 ある日突然、町の小さな病院がなくなる。近所にあった病院が姿を消す。みなさんの身近に果たしてそんなことが起こるのでしょうか?
書籍『病院がなくなる日 20××年、健康大国日本のリアル』から抜粋してお届けいたします。
政府が進める「病床の再編」──地域医療構想
病床数が多すぎて、効果的で質の高い医療が提供できていない。
高齢化によって医療と介護の需要に変化が生じている。
日本が抱えているこうした医療体制の課題を解消するために、国もコロナ禍以前から医療資源の分散を是正・適正化し、医療機能の集約化や役割分担・連携の強化などを進める方向へと医療政策の舵を切り始めています。
医療提供体制の適正化のために国(厚生労働省)が行っている主な施策は、
(1)「医療機能による病床の再編」
(2)「複数医療機関の再編・統合」
の2つです。
まず、(1)の病床再編を目指して進められているのが2014年6月成立の「医療介護総合確保推進法」によって制度化された「地域医療構想」です。
地域医療構想とは、少子高齢化が進むなか、団塊世代全員が75歳以上になって医療・介護需要が跳ね上がる2025年を見据えて、従来の医療提供体制を見直し、整備する政策のこと。
その大きな柱が、増えすぎた病院・病床の再編です。
その取り組みについて簡単に説明しましょう。
病院などの医療機関が有している病床は、患者の状態に見合った医療を提供する機能(医療機能)によって、
1.病状の早期安定に向け、とくに密度の高い医療を提供する「高度急性期」病床
2.病気になり始めで病状が不安定な患者に医療を提供する「急性期」病床
3.急性期医療後の、在宅復帰への医療やリハビリを提供する「回復期」病床
4.長期的な療養が必要な患者の入院・治療を行う「慢性期」病床
という4つに分かれています。
これまでは治療や手術を行う「急性期病床」の需要が高かったのですが、高齢化がさらに進むと、疾病構造や医療需要の変化によって急性期病床は減少し、「回復期病床」への需要が大きく増加すると予想されます。そこで、
・需要が減る急性期病床を減らす。
・高度急性期病床も減らしていく。
・需要が増える回復期病床は、不足しないように増やす。
・慢性期病床は、在宅医療へのシフトを見据えて減らしていく。
というように、医療の需給バランスを考えた病床の確保を目指す取り組みが、地域医療構想における「医療機能による病床の再編」になります。
そして、(2)の複数医療機関の再編・統合とは、病床の4つの医療機能による適切な再編を、1病院単位ではなく、「地域にある複数の病院」という枠組みで考えましょう、ということです。
例えば、ある地域に「高度急性期」から「慢性期」まで4つの医療機能を備えている「A」「B」という同規模の2つの病院があったとしましょう。
ときには両方の病院で救命救急センターやICU(集中治療室)などの救急医療機能が逼迫して“パンク状態”に陥ってしまう可能性もあります。
そうした場合にはA、Bの病院同士で協議し、医療資源(医師や看護師など)を融通するなどの形で連携して「A病院には高度急性期と急性期機能を集約、B病院には回復期や慢性期機能を集約する」といった機能分化の措置を取ることで、質の高い安定した医療の提供が可能になります。
このように近隣の病院間で病床の機能分担ができる体制の構築も、地域医療における医療提供体制適正化の1つの施策になります。