家の近くに、住んでいる地域に、信頼できる病院があって、体調が悪くなったときすぐに受診できる――人はそれだけで大きな安心感を覚えます。病院が近くにあって、受診の利便性に優れた地域は、土地の価値(資産価値)が高くなる傾向があるとも言われています。それだけ病院は地域にとって重要な場所なのです。
とくに日本は病院の数が多いため、病院は地域の人たちにとっても身近な存在で、受診のハードルも高くありません。こうした恵まれた環境もあって、日本は世界トップクラスの「健康大国」「医療大国」と呼ばれる“健康優良国と”して評価されているのです。
ところが国は今、病院の数を、病床(入院用ベッド)の数を減らすための施策を推進しています。その背景には、容赦なしに進む超高齢化や人口構造の変化、地域格差、国が進める地域医療構想、さらにはコロナ禍ゆえに発生した「受診控え」に伴って広がる医療のオンライン化など、さまざまな要因が絡み合って存在しているのです。
時代の流れと社会情勢の変化のなか、この国の医療提供体制は現状どうなっていて、今後どう変わっていくのか。本連載では「ニッポンの病院」の今とこれからについて記した書籍『病院がなくなる日――20××年、健康大国日本のリアル』から抜粋してお届けいたします。
日本は世界断トツの「病院・病床大国」
病気にかかったら、近所の病院やお医者さんに行って診てもらう。
病院や診療所は身近にあって当たり前。
──日本ではこうした感覚が比較的一般的かと思います。
とくに都市部では、それこそ町を歩けば、石を投げれば、「病院に当たる」と言ってもおかしくないほど。こうした状況は世界でも珍しいと言われています。
そもそも、日本にはどのくらいの数の病院があるのでしょうか。
OECD(経済協力開発機構)が2021年に発表した「世界主要国病院数ランキング」で、日本は8205施設で堂々の1位です。2位のアメリカが6129施設ですから、2000以上の大差をつけて世界断トツ。
それゆえ、日本は世界に名だたる「病院大国」とも呼ばれているのです。
「病院の数」と常に同時に語られるのが「病床の数」です。病床とは「入院用のベッド」のこと。医療体制の構築にとって「病床の数」は非常に重要なファクターになります。
例えば法律上での医療機関の分類も、病床数によって行われています。医療法では、
・病床(入院用のベッド数)が20床以上ある施設──「病院」
・19床以下もしくはベッドがない施設──「診療所(医院、クリニック)」
と定められています。つまり、病院と診療所の違いは「どれだけ入院患者を受け入れられるか」という体制の規模にあるということ。
「日本の病院数は世界一」ですが、それは「20床以上を持つ医療機関の数が世界一」ということでもあるのです。
そう考えれば容易に想像がつきますが、日本は病床数でも世界トップクラスです。
OECDが2021年に発表した「人口1000人当たりの病床数(ベッド数)」によると、日本は「12.8床」で世界主要国の中で最多。
これはアメリカ(2.8床)やイギリス(2.5床)と比較すると、実に4~5倍にもなる圧倒的な多さとなっています。
日本は今、世界トップレベルの健康寿命国として高く評価され、「医療先進国」と呼ばれていますが、それと同時に「病院大国」であり、なおかつ「病床大国」でもあるのです。