紫の上に見る紫式部の深い絶望

『源氏物語』には、三角関係はもちろん不倫や不義密通まで描かれています。物語中、最高の愛のかたちともいえる光源氏と紫の上の関係ですら、歪んでいます。

 光源氏はまずマザコンの対象として藤壺を愛し、それが成就しないとなると藤壺の代わりに幼い紫の上を見初めます。そして紫の上を自分の理想の妻として人形のように育て上げるのですから、一種のロリコンといえます。

 ところが、光源氏にとって最高の愛(マザコン+ロリコン)の極致であるはずの紫の上を手に入れたのちも、光源氏は次から次へと不倫していくわけですから、紫の上が出家したいと思うのも当然といえば当然でしょう。

 こうした恋愛を描いているところから想像するに、紫式部は恋愛に対して相当深く絶望していたと思われます。紫式部は稀代のプレイボーイである光源氏に愛の狩人として多くの恋愛をさせます。しかし、決して満足かつ完全なる愛のかたちを描きません。

 光源氏のモデルは藤原道長だと言われることがありますが、道長のそばにいてその私生活を冷静に見つめていた紫式部は、当時の妻問婚(つまどいこん)や政略結婚などによって女性が不安定で辛く苦しい立場に置かれていることも訴えたかったのでしょう。