一番洗脳されているのはホスト
また、Aさんはホストにおいても、「2:6:2の法則が成り立つ」と明かす。この法則は、どんな組織や集団でも、優秀層が2割、普通が6割、できが悪いのが2割と見なす。イタリアの経済学者ビルフレッド・パレートが発見した「80対20の法則」(特定の2割の要素が、全体8割の成果を生み出すとの経験則)の発展版とされる。
北関東の店舗では、ホストは多い時で40人ほどだった。このうち、月50万円以上の報酬があったのは上位2割に過ぎない。下位2割は、無給か借金状態。6割は、月15~30万円台に留まっていた。
ホスト業界は、華やかさや稼げる夢を全面に押し出すが、実態はそう甘くない。それでも、ホストはあくまで売上ランキング上位を目指す。そんな拝金主義を知るAさんは、「一番洗脳されているのはホスト」との認識を示した。
Aさんは、注目が集まる「悪質ホスト」は、ホスト全体の中で「5~10%」との見立ても披露した。彼にとっても、女性に過度な売掛を背負わせ、強制的に風俗や売春へと仕向けるのは「悪質」部類。これを数パーセントとした。
さらに指名ホストを推す女性から、「もっと貢ぎたいから風俗店を教えて」と聞かれて風俗店を紹介する。ホストが女性に「俺のために頑張らない」と緩やかに風俗を勧めて女性が受けるケースも、「悪質」に含ませた。洗脳やマインドコントロール状態を考慮したからだ。
この二つをあわせ、先の5~10%と試算したという。
こうした実態を踏まえつつもAさんは、ホストクラブを否定しない。長く身を置いてきた愛着もあるし、女性に楽しい時間を与えてきた自負があるからだ。
他方、筆者がこの前日に取材した売掛160万円を抱えて苦しむ女性(20)は、「もう二度とホストクラブとは関わりたくない」と語った。彼女は弁護士に頼り、現状改善を目指している。
同じ売掛地獄を経験しても、業界を必要とするAさんと、決別を誓う女性。この落差が「悪質ホスト」問題に関する、ホスト業界と業界外との認識の差につながっているのかもしれない。