【災害・防災の勘違い その2】
避難訓練の標語『おはし』を守る

──実際に災害が起きた際には、どういった点に気を付けるべきですか?

 防災訓練の際に、『おはし』という標語を耳にしたことがある方は多いと思います。これは、「押さない」「走らない」「しゃべらない」の頭文字を取ったものですが、災害が起きている現場で、それを本当に守っていてはとても助かりません。『おはし』は結局、避難訓練を安全に行うための標語にすぎないからです。もし避難時に引率してくれるリーダーがいれば「おはし」でいいかもしれませんが、自力で逃げる場合はうまくいかないでしょう。

 そこで私が作ったのが、もっと能動的に動く標語『よいこ』です。「よく見る」「急いで逃げる」「声をかける」の頭文字を取っています。

 まず、「よく見る」とは、今いる位置からどこに逃げるべきか選択をすること。テレビやラジオ、SNSからの情報の収集と判断も含みます。「急いで逃げる」は、危ないところからすみやかに逃げることです。「声をかける」とは、周りに「大丈夫?」と声をかけたり、情報を取れない人に「あっちに逃げて!」などと情報を伝えたりすることです。自分自身に「大丈夫」と口に出して言うだけで落ち着く効果もあります。

 被災すると「助けてもらう」という意識を持つかもしれませんが、災害時に医療者は多くの人を助けることはできません。ただし、助かる気持ちがある人のサポートはできます。ですから、『よいこ』を意識して、自分で生き抜く力を身に付けることが大切です。

【災害・防災の勘違い その3】
72時間たったら元の生活に戻る

──そのほか、実際に被災した方が勘違いしていると思うことはありますか?

「72時間」とは命の期限とされる時間のことを指しますが、これが独り歩きしてしまい、「72時間を過ぎたら自動的に生活が立て直される」「行政が動きだしてなんとかしてくれる」と思い込んでいる人が少なくありません。

 しかし実際は、何も食べなくても生きていける命のデッドラインであって、復旧するタイミングではありません。そこを勘違いしている印象があります。

 実際に行政のフォローが始まっても、その範囲は最低限生きていける程度に限られます。しかも期限付きで、昨年の台風15号の影響によって千葉で大規模な停電が起きたように、復旧には時間がかかるケースもあります。

 そんな中で、被災前と同じレベルの状態に持っていくには、自力で食べ物や飲み物、そのほか必要な生活用品などを準備しておくしかないのです。それによって、生き延びられる確率も上がるはずです。