現在の世界経済の状況を見ると、先進国と新興国との間に大きな断層が出来つつあることがわかる。その断層の幅は大きく、ある経済専門家の言葉を借りると、「先進国と新興国との間には、経済的に“天国と地獄”ほどの差がある」と言うことができる。
多くの先進国は、社会的なインフラ投資の完了による需要の減少傾向や、少子高齢化などの構造的な経済問題を抱えている。それに加えて、リーマンショック以降、不動産バブルの後始末に伴う景気回復の遅れで、需要減少によるデフレ傾向が目立っている。
一方、新興国では、インフラ投資の活発化や人口増による需要の拡大が見込める。また有力な新興国は、工業化の進展や政府の景気対策によって、足元で景気が急速に回復しており、その熱気が先進国にも伝わってくる。
今や、それほど先進国と新興国の経済状況は大きく異なっている。このようなトレンドは、今後の世界経済にどのような影響を与えるのか? 詳しく考察してみよう。
現在、新興国の景気回復は、徐々に世界経済にもプラスの影響を与え始めている。それは、わが国の経済が、アジア諸国向け輸出増加の恩恵を受けて、景気回復への道を辿り始めたことでも明らかだ。
ただし、新興国の経済規模が相対的に小さいため、今のところ、先進国を含めた世界経済全体を押し上げるには、エネルギーが不足している。新興国経済の高成長が、世界経済全体を持ち上げるだけの実力をつけるには、まだ時間を要すると見るべきである。
また、新興国には見逃せない問題もある。それは、景気の改善が急ピッチなため、不動産価格の上昇やインフレ傾向が鮮明化していることだ。工業化を迎えた諸国の不動産価格が上昇傾向を辿ることは、ある意味では当然のことと言える。
しかし、上昇速度が急すぎると、経済全体に歪みができることが懸念される。また、インフレ懸念が本格化すると、社会全体の富の配分や価格体系を大きく崩してしまう。
そうした状況を放置すると、新興国の経済に大きな障害が発生することが考えられる。そうした弊害に歯止めをかけるために、すでにインドなどでは、金融政策の変更を含めた政策転換の観測も出ている。