日本における選挙介入で
特に懸念すべきは地方
ところで、台湾に対する選挙介入と同様のことを、中国は日本に対しても行うことは可能なのだろうか。
まず、日本は自民党の一党優位のため、有権者が政権選択を迫られる台湾と事情が異なる。
中国としては、自民党を下野させることは難しいため、むしろ、自民党内での離間(分断)工作や影響力工作を画策する中で、長期的に政治中枢に親中派議員を育成する手法が効果的であり、これには当然野党に向けた作業も含まれる。
特に親中派議員の育成において、懸念されるべきは“地方”だ。
中国としては、“中央”内の離間工作などに加え、“中央”と“地方”の離間工作も行う。“地方”でも同様に親中派を育て上げ、例えば首長に親中派を置くなどの手法で影響力を行使する。“地方”においては一定程度成功している部分もある。
しかし、これだけ政治工作が“ある”と述べておきながら、日本のインテリジェンス・コミュニティーに外国勢力による政治工作として認定・裏付けられた事例は極めて少ない。
中国に関しては、李春光事件(2012年)のような中国人民解放軍総参謀部第二部の関与が裏付けられた事件、ロシア(ソ連)で言えば、レフチェンコ証言やミトロヒン文書などに古いものに限られている。
それは、日本のインテリジェンス・コミュニティーが一定程度把握しつつも公にしていない/できていない部分があると推察され、ここに一つの問題があると考える。
では、日本は中国による政治工作にどう対抗すべきか。
カウンター・インテリジェンスでは、工作活動に対し「暴露」が最も効果的な対抗策である。その最たる例は、“摘発”と“広報”だ。
政治工作はこれからも定常的に行われていくだろう。今後、憲法改正に向けた国民投票の可能性もある。この際、親中派候補への働きかけや国民への世論工作を駆使するほか、ハッキングによる政治スキャンダル情報の入手やリーク、憲法改正に反対意見を有する勢力内にヒロイックな存在を立て、世論を扇動するような動きも生じるかもしれない。
こうした動きに対し、日本のインテリジェンス・コミュニティーは、外国国家が関与する工作を把握して“暴露”するような、情報の収集能力と発信能力が求められている。
捜査実務の目線で語れば、このような工作活動を取り締まるには法的根拠が必要となる。だが、脊髄反射のようにスパイ防止法を制定せよと唱えてしまえば、本質がかすむため、冷静に検討しなければならない。例えば、政治工作のような見えにくい活動に対しては、通信傍受やおとり捜査が実施できるのであれば、より効果的だろう。
捜査機関は、違法行為がなければ積極的に広報しない姿勢だが、検挙の成否によらず、例えば防衛省などと協力して重要事案・重要工作を積極的に広報し、相手の工作活動を暴露する姿勢を見せることも、状況によっては必要ではないだろうか。