半導体戦争 公式要約版#15Photo by Shogo Murakami

台湾有事は起こらない――。作家で元外務省主任分析官の佐藤優氏は、そう喝破する。特集『半導体戦争 公式要約版』(全15回)の最終回では、週刊東洋経済の「ベスト経済書・経営書2023」にも選ばれた『半導体戦争』(クリス・ミラー著)を読んだ佐藤氏が、同書の最も面白かった話や、米中対立の行方について語った。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優、構成/石井謙一郎)

石原慎太郎が説き続けた
半導体の重要性

『半導体戦争』で最も面白かったのは、日本の半導体産業の盛衰に関する記述です。中でも、ソニー(現ソニーグループ)の創業者・盛田昭夫氏と元東京都知事・石原慎太郎氏の共著『「NO」と言える日本 新日米関係の方策(カード)』に注目した部分です。著者のクリス・ミラー氏は、日米摩擦を取り上げて1989年にベストセラーとなったこの本のもう一つのテーマは、半導体だったと指摘しています。

 1993年、アメリカが半導体の出荷数で首位に返り咲く。1998年には、韓国が日本を抜いて世界最大のDRAM生産国となり、日本の市場シェアは1980年代終盤の90%から1998年には20%まで下落した。

 日本の半導体分野における野望は、日本の国際的な地位の拡大を下支えしてきたが、今となってはその土台そのものが脆弱に見えた。『「NO」と言える日本』で、石原と盛田は、半導体分野での優位性を使えば日本は米ソ両国に力を行使できる、と主張していた

 DRAM(Dynamic Random Access Memory)とは、メモリ・チップの一種で、データの一時的な保持に使われます。80年代に圧倒的なリードを保っていた日本ですが、90年代には、復活した米インテルや安価なメモリ・チップの供給源となった韓国のサムスン電子が追い越していきました。

 盛田氏は90年代に体調を崩し、石原氏が半導体の重要性を説き続けたものの日本社会に影響を与えませんでした。しかし言っていることは実は正しかったという指摘も面白いと思います。

 大半の日本人にとって、石原の主張はもはや支離滅裂だった。1980年代、半導体が軍事的なバランスを形づくり、テクノロジーの未来を特徴づけると予言した彼の考えはまぎれもなく正しかった。しかし、その半導体がずっと日本製のままである、という考えのほうは結果的にまちがいだった。

 1990年代、日本の半導体メーカーは、アメリカの復活に押されて縮小の一途をたどった。アメリカの覇権に対する日本の挑戦は、その技術的な土台から脆くも崩れはじめたのだ。

なぜ中国による台湾侵攻は起こらないのか。佐藤優氏が指摘する「武力を用いるより賢明な方法」とは?次ページでは中国が考えている現実的なシナリオと、台湾に侵攻した場合のシミュレーションを語ってもらった。