資金繰り支援から経営改善・事業再生のフェーズへ――。中小企業へ資金を提供していた地方銀行と信用金庫・信用組合は2024年、一つの転換点を迎えることになりそうだ。【2024年「事業再生」の隘路・前編】では、その背景と求められる役割について解説する。(共同通信編集委員 橋本卓典)
経営改善と事業再生の支援
2024年は、新型コロナウイルス禍の窮境企業の事業再生が、一つのヤマ場を迎える。
23年11月27日、金融庁が金融機関代表らと開催した会議の冒頭、鈴木俊一金融担当相が、これまでの資金繰り支援から経営改善・事業再生のフェーズに移行する必要性を強調した。この方向で監督指針も見直されることになる。
地域金融行政が経営改善・事業再生モードにシフトすることを踏まえ、地方銀行や信用金庫などの地域金融機関は、対応を迫られる。国は金融機関に窮境企業の経営改善計画を策定させる事業を推進する。
だが、実際の経営改善支援と事業再生支援を進めるのは容易ではない。本稿では、その理由と考え得る対処策を解説したい。
膨大な小規模事業者
国がコロナ対策として打ち出した実質無利子無担保の「ゼロゼロ融資」は、返済困難になれば、金融機関が信用保証協会に残りの債権の返済を求める「代位弁済」が発動される。代位弁済後、信用保証協会が企業から回収できなければ、最終的には公的負担となる。
安易な公的負担というモラルハザード(倫理観の欠如)は許されないが、銀行業界全体の不良債権問題による貸し渋り、そして日本経済が不況に陥るような事態には至らない。
ただ、楽観視はできない。
ゼロゼロ融資は23兆円、累計137万件に及んだ。ざっと中小企業の半分程度が活用したことになる。仮にこの1割が返済不能になったとして、1兆~2兆円の代位弁済が行われかねない。その数は13万社に及ぶ。
前提として理解しておかねばならないのは、コロナ禍の主要な窮境企業が大企業や中堅、中核企業ではないということだ。従業員数人、売上高数千万~1億円前後、借入金は数千万~数億円程度という小規模事業者である。
この小規模事業者の事業再生に対応できる金融機関の専門人材が圧倒的に足りない。このことが問題を難しくしている。アベノミクスによる長らくの好景気で、事業再生に携わる部署が縮小、解体され、専門人材が高齢化し、ノウハウや技術は承継されてこなかったのだ。