サイバー誘拐の原型「バーチャル誘拐」とは?

 米FBIのサイトを見ると、「バーチャル誘拐」(virtual kidnapping)という名称で2017年に注意喚起のための記事が掲載されている。このバーチャル誘拐こそ、「サイバー誘拐」(cyber kidnapping)の原型ともいえる犯罪だ。

FBIのサイトには、「バーチャル誘拐」を注意喚起する記事が掲載されている。FBIのサイトには、2017年に「バーチャル誘拐」を注意喚起する記事が掲載されている。

 それによると、バーチャル誘拐とはさまざまな形態があるものの、「誘拐」というより「恐喝」に相当するものらしい。犯人は相手に自分の大事な人が誘拐されたり、暴力にさらされたりしていると「思い込ま」せ、その解放のためだと称して身代金を要求するという流れ。だが、実際には犯人が誰かを誘拐して監禁しているわけではなく、ただただ相手にそのかたりを信じ込ませ、その計画が破綻する前にお金をせしめるというわけだ。

 バーチャル誘拐が出現したのは10年ほど前のことで、主にメキシコや南米のスペイン語圏がその舞台だったらしい。それが米国国境を越えて米国内へと波及し、最初は米国のスペイン語を話す人たちの間で広まり、その後は次第に人種や特徴を超えたターゲットが選ばれ始めたという。

 FBIサイトに掲載されていた記事には、この犯罪が国境を越えたきっかけが紹介されている。メキシコで収監されていた詐欺師たちが看守に賄賂を渡して携帯電話を手に入れ、米国ビバリーヒルズの裕福な地域の家に適当に電話をし、相手が電話を取ると助けを求める女性の叫び声(の録音)を流す。驚いた相手が思わず家族の名前を出して、「メアリー、大丈夫?」などと反応すると、そのまま詐欺師が「メアリーを誘拐した」と言って身代金を求める……。

 もちろん、そこで冷静になれる人ならすぐに「メアリー」がそのときいるはずの場所に連絡して無事を確認するだろう。だが、その手段がなかったり、慌ててしまったりすればそれすら思いつかないし、また犯人もそれを見越して相手が電話を切らないようにさまざまな話術を使い、相手に「誘拐」を信じ込ませてお金を支払わせるのだという。

 ……つまり、これは「オレオレ詐欺」の亜種ではないか。

 このバーチャル誘拐の発展形が、今回、荘さんが被害にあった「サイバー誘拐」だ。事件関連の報道によると、近年、この手の詐欺が欧米に滞在中の中国人留学生をターゲットに多発しているらしい。