サイバー詐欺で狙われる留学生の家族に共通するものとは
もう一つ、「とても中国的だな」と感じたのが、権威機関関係者を装う犯人に、「祖国の家族に贈収賄の容疑がかかっている」と言われて留学生が慌てる点である。
彼らは自分たちが海外留学できる裕福さをきちんと認識しており、それが親の財力から来ていることを十分意識していることになる。だが、自分の親たちが具体的にどうやってその財を築き上げたのか、あるいはどんな状況に身を置いているのかはほとんど何も知らされていない。
もちろん、日本人家庭の子どもたちもこの点は同じだろうが、違うのは「汚職容疑」と聞いて中国人留学生が震え上がることだ。つまり、中国人留学生は、祖国において汚職は最高刑が死刑という重大犯罪であることを知っているのだ。
当然ながら、汚職は権力を巡って起こる。彼らは自分の家族が大なり小なりの権力を握っていることを漠然とではあるが知っており、だからこそ簡単に犯人たちのかたりにのせられてしまうのである。
ここまで調べて、そんな中国人留学生を狙う「サイバー誘拐」の複雑な背景にため息が出た。犯人たちは留学生の出自を調べ上げたうえで犯行に及ぶのだろう。もちろん、当の留学生だけではなく、その家族の背景や所在地、そして連絡方法まですべて犯人の手中に収められているからこそ、この犯罪が成り立つわけだ。一般庶民の中産階級の子女を狙っても、犯罪「利益」はあげられない。
そう考えると、荘さん事件の後続報道がないのもうなずける。荘さんの家族について報道するわけにはいかないからなのだろう。いや、それだけではない。過去に同様の被害にあった中国人留学生、そしてその家族の存在についてもこれまでずっと広く知られていなかったのもそのせいだろう。
大使館や政府が「注意喚起」したところで、こうした犯罪の犯人が捕まって、大使館や公安の威信を取り戻さない限り、同じような事件は水面下で手を替え品を替え、続くことになるだろう。だって、今やターゲットはいくらでもいるのだから……。