中国人留学生を狙う「サイバー誘拐」の手口

 ここからは「サイバー誘拐」の典型的なパターンを見ていこう。中国人を狙った事件では、犯人は現地の中国大使館などの電話番号を表示させて留学生に電話をかけ、中国語で大使館や領事館職員、あるいは中国公安関係者と名乗る。

 そして、その留学生の中国で暮らす家族が汚職容疑で捜査対象になっていると伝え、留学生に最近家族から送金はなかったかと尋ねて、そのお金が収賄の証拠である可能性があり、そのままだと留学生も捜査対象になると脅す。

 それを聞いた留学生が慌て始めると、相手は自分や家族の潔白を晴らすためにもおとなしく捜査に協力するよう持ちかける。そして、まず留学生に対して家族や周囲の人間としばらく連絡を絶ち、どこか一人で過ごせるところに身を隠すように求め、さらに自分が監禁されているように見える写真を自撮りして渡すように要求するのだという。

 犯人はそうやって家族や周囲が連絡を取れなくなってしまった留学生の「監禁写真」を送り付けて、家族から「身代金」をゆすり取る――というのが大方のプロットのようだ。

 冒頭の荘さんの失踪も、彼が通っていた地元の高校に、中国にいる彼の家族から荘さんが監禁されている写真を受け取ったと通報があったことから明らかになった。ホストファミリーは彼が行方不明になっていたことに気付いておらず、また警察が捜索しても、荘さんが強制的に連れ去られたことを示す証拠は見つからなかったという。

 警察は、荘さんが行方不明になる前から、自分からあえて周囲の人たちと距離を置いていたことを突き止めている。そしてその間、中国にいる家族は荘さんと連絡が取れないまま、何度も脅迫状が届き、結果的にその要求に従って「身代金」8万ドル相当のお金が銀行口座に振り込まれた。

 一方でリバーデイル警察はFBIと北京にある米国大使館、中国政府関係者と協力しながら荘さんの捜索を続け、ついに、人目につかない雑木林のテントの中で彼を発見した。

 米国メディアは、身代金が振り込まれたのは中国の銀行口座だと報道している。今時の中国当局の監視力を使えば、犯人の特定はすぐに進みそうだが、これを執筆中の1月中旬時点では事件の続報は伝えられていない。だいたい、脅迫者が中国語を使っていることから、明らかに犯人は中国人なのだろう。